富士山と防災

ホーム富士山と防災富士山について富士山知識>5.富士山周辺の民話

富士山と周辺文化

5.富士山周辺の民話

 ユーモア、冒険、人情など昔話には語り継がれるために欠かせない要素がたくさん詰め込まれています。そして富士山周辺の民話には、おまけにスケールの大きさがプラスされているようです。

●山の背くらべ  駿河富士と下田富士

 まだ、日本中のあちらこちらで、山や湖が出来つつあった頃のお話。
駿河富士と下田富士は、仲むつまじい姉妹山として、たがいに声をかけあいかばいあっていた。姉の下田富士は妹の駿河富士のために、雨が降りそうなときにはかさ雲をかけてあげたり、風が吹けば長い雲の手で守ってやろうとした。
ところが誰が見ても「美しい」という駿河富士にくらべ、下田富士はあまりにも醜かったのである。長い裾をひき、あでやかで気品にみちた姿の妹。一方丸くふくれたボタモチ顔で、まわりから愛されることのない姿の姉。やがて年頃となり、美しさの差を痛感するようになった姉は、しだいに妹をきらいはじめ、ある日ふたりの間に大きなビョウブをたててしまった。これが天城山である。妹富士は驚き、姉に「どうしたの?」と声をかけた。姉富士は見られるのもいやといってみをかがめる。気になる妹は、ますます背伸びをして姉の様子をうかがおうとする。姉はいよいよその身をかがめ、ついに山陰に隠れてしまった・・・・。
こうして駿河富士は、どんどん高さをのばしていき、やがて近国中誰にも劣らぬ高峰としてそびえ立つようになった。
~ 日本一の背くらべ合戦 ~
そうなると、諸国の山々がだまっていない。われこそは日本一と、きそって駿河富士に背くらべを申し込んできた。関東の筑波山、東北の岩手富士や津軽富士・・・・がいずれもあっけなく敗れ去っていった。残るは裏日本の雄、加賀の白山だけとなり、日本中の山々はこの勝負をかたずをのんで見守った。「どちらに軍配が上がるかな?」「一見富士山が高そうだが、実際は白山じゃないか」「いや、やっぱり雲より上に顔を出す富士山だよ」。いろいろな下馬評が飛び交う中、勝負の審判として、甲斐の白根山と八ヶ岳、それに信濃の御嶽さんが選ばれた。
そして迎えた最終決定戦の日――

富士山と白山の姿を審判がじつと目測する。日本中の山々が折り重なる用になって応援する。ざわめきの中審判の一人が口を開いた。「測定の結果を申し上げます。」緊張の一瞬。「目測による決定はとても困難です。そこで二つの山に樋をかけて水を流せば、水は低いほうの山に流れますからね」周りの山々も納得し、富士山と白山の頂に長い樋がかけ渡された。
審判の一人御嶽さんが水を静かにそそぐ。
諸山も水の行方を静かに見守る。ゆっくりと両方の山に広がっていく水・・・やがてあるところまで流れると、急に止まった。その止まった水が静かに交代しはじめた。富士山側である。水は白山に向かって流れつづけている。白山側の一人があわててワラジを脱ぎ樋の端にあがって立った。水の流れが再び平らになった。と、その時、審判の断がくだった。「富士山の勝ちイ」勝負の決着に双方の応援団から歓声が上がる。富士山と白山、両者に拍手が送られる。山の背くらべは終末をつげ、ここに富士山は日本一の名をほしいままにしたのだった。

●富士の竹取物語

 むかしむかし富士のふもとの村に、竹取おじいさんとおばあさんが暮らしていた。とても仲の良い二人だったが、なぜか子供が授からない。ある日おじいさんが竹取に出かけると一本の竹が光をはなっている。不思議におもってその竹を割ってみると、なんと中から背丈三寸ばかりのかわいい女の子が出てきたではないか。おじいさんはびっくりしながらも、女の子をとりあげて家に帰り、おばあさんと大切に育ててゆくことにした。
かぐや姫。おじいさんとおばあさんは、女の子をそう名づけた。二人の愛情を受けてすくすく育ち、やがて立派な娘に成長した。その言葉づかいやふるまいは、村の娘たちとおおちがい。美しさもこの世の人とは思えないほどで、まるで天女のようであつた。やがてかぐや姫の美しさは日本中に知れわたり、たくさんの男たちが昼となく夜となく姫の家の周りにやってくるようになった。「ぜひとも姫にお会いしたい。出来れば妻として迎えたい」。だが、かぐや姫は決して外に姿をあらわさない。男たちはいつまでたっても誰一人姫に会えず、やがてあきらめて去っていってしまった。
さてその頃京の都の帝は、「美しい娘を全国から探し出し宮仕えをさせるように」というおふれを出していた。そして富士山のふもとの村にも帝の使いがやってきた。使者は村のあちこちを歩き回ったがこれといった娘は見つからない。そのうち日が傾きかけてきた。「どこかに宿を探さなくては」、使者がひと晩の宿をもとめたところは、竹取おじいさんの家であつた。
その家、外見は粗末なのに、中に入ると部屋がみょうに光かがやいている。「じいさん、なぜこんなにも一晩中火をともすのか」「いいえ、火をともしているのではありません」、そう言いながらおじいさんは家の奥にいるかぐや姫を呼んだ。姫の体が光かがやいている。使者は姫の美しさに驚いた「これぞ天下一の美女」。使者はかぐや姫を都に連れて行こうとするが、姫はしたがわない。使者はいったん都に帰っていった。が、それからというもの、かぐや姫のもとへ何度も帝の使いがやってくるようになった。こまりはてるおじいさんとおばあさん。見かねたかぐや姫は「私は山へ登って暮らします」と言って富士山頂へ登っていった。話を聞いた帝は自ら富士山頂へおもむき、姫をたずねた。一夜を帝とともにすごしたかぐや姫は、明け方、月の光の中を静かに天に昇っていったという。