まだ、日本中のあちらこちらで、山や湖が出来つつあった頃のお話。 駿河富士と下田富士は、仲むつまじい姉妹山として、たがいに声をかけあいかばいあっていた。姉の下田富士は妹の駿河富士のために、雨が降りそうなときにはかさ雲をかけてあげたり、風が吹けば長い雲の手で守ってやろうとした。 ところが誰が見ても「美しい」という駿河富士にくらべ、下田富士はあまりにも醜かったのである。長い裾をひき、あでやかで気品にみちた姿の妹。一方丸くふくれたボタモチ顔で、まわりから愛されることのない姿の姉。やがて年頃となり、美しさの差を痛感するようになった姉は、しだいに妹をきらいはじめ、ある日ふたりの間に大きなビョウブをたててしまった。これが天城山である。妹富士は驚き、姉に「どうしたの?」と声をかけた。姉富士は見られるのもいやといってみをかがめる。気になる妹は、ますます背伸びをして姉の様子をうかがおうとする。姉はいよいよその身をかがめ、ついに山陰に隠れてしまった・・・・。 こうして駿河富士は、どんどん高さをのばしていき、やがて近国中誰にも劣らぬ高峰としてそびえ立つようになった。 ~ 日本一の背くらべ合戦 ~ そうなると、諸国の山々がだまっていない。われこそは日本一と、きそって駿河富士に背くらべを申し込んできた。関東の筑波山、東北の岩手富士や津軽富士・・・・がいずれもあっけなく敗れ去っていった。残るは裏日本の雄、加賀の白山だけとなり、日本中の山々はこの勝負をかたずをのんで見守った。「どちらに軍配が上がるかな?」「一見富士山が高そうだが、実際は白山じゃないか」「いや、やっぱり雲より上に顔を出す富士山だよ」。いろいろな下馬評が飛び交う中、勝負の審判として、甲斐の白根山と八ヶ岳、それに信濃の御嶽さんが選ばれた。
そして迎えた最終決定戦の日―― 富士山と白山の姿を審判がじつと目測する。日本中の山々が折り重なる用になって応援する。ざわめきの中審判の一人が口を開いた。「測定の結果を申し上げます。」緊張の一瞬。「目測による決定はとても困難です。そこで二つの山に樋をかけて水を流せば、水は低いほうの山に流れますからね」周りの山々も納得し、富士山と白山の頂に長い樋がかけ渡された。 審判の一人御嶽さんが水を静かにそそぐ。
諸山も水の行方を静かに見守る。ゆっくりと両方の山に広がっていく水・・・やがてあるところまで流れると、急に止まった。その止まった水が静かに交代しはじめた。富士山側である。水は白山に向かって流れつづけている。白山側の一人があわててワラジを脱ぎ樋の端にあがって立った。水の流れが再び平らになった。と、その時、審判の断がくだった。「富士山の勝ちイ」勝負の決着に双方の応援団から歓声が上がる。富士山と白山、両者に拍手が送られる。山の背くらべは終末をつげ、ここに富士山は日本一の名をほしいままにしたのだった。 |