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富士山の基礎知識

4.富士山の湧水のメカニズムを探る vol.2

■湧玉池の湧水

富士宮浅間大社にある湧玉池は池の底から玉のように湧き出す富士山からの湧水として古くから知られています。湧玉池の様子を見ると、池の背後すぐ北東側に迫る富士山玄武岩溶岩の間から、あるいは池底から湧き出しているのがよくわかります。この溶岩は大宮溶岩(富士宮溶岩)と呼ばれ、今から約1万年前に山頂近くから噴出し南西に向かって流れてきたもので、その上半分は湧玉池の手前で止まりました。その末端から湧き出したのが湧玉池です。湧玉池から流れ出ている神田川の流量を調べると平均して1日20万m3も流れているので、それだけ湧き出していることが分かります。
池の背後の溶岩の丘は高さが19mありますが、そこでボーリング調査をおこなったところ、大宮溶岩はここでは厚さが28.4m、1層の厚さは平均4m、計7層の溶岩層が重なっていて、その下には厚さ10cmの火山灰層があり、それより下は古富士火山の泥流層になっていました。地下水は3層の流れがあり、溶岩層の間と火山灰層中を流れていましたが、一番上の流れが池に湧き出していて、ボーリングの孔の中では地下水面は湧玉池水面より1.75m高くまで上昇するので、それに近い高さの圧力で地下水が池に湧き出していることがわかりました(図2)。このように水圧が加えられている地下水を“被圧地下水”と呼び、これに対して、水圧の加えられていない普通の地下水のことを“自由地下水”または“不圧地下水”と呼びます
図-1 約1万年前の大規模な溶岩流と主な湧水
図-2 湧玉池とその付近の地質断面図

■柿田川の湧水

図-3 柿田川源流付近の地質断面図
 柿田川は駿東郡清水町の国道1号のすぐ南側の湧水が水源となり、南へ流れて狩野川に合流するわずか1200mの川ですが、1日100万トン近くの清らかな湧水が流れることで知られています。これも今から約1万年前、富士山の山頂から噴出して南東に向かい、愛鷹山と箱根山の間を通り、ここまで約35km流れてきた三島溶岩の末端なのです。水源のすぐ北側の清水町総合運動公園でボーリング調査をしたところ、地表(標高22m)から深さ25mまでは沖積平野の砂礫層で、深さ20mのところに伊豆天城山の側火山カワゴ平の約3000年前の噴火で飛来した軽石の層がはさまれていて、深さ25mから70mまでは10層の玄武岩溶岩層が重なり、その下はまた砂礫層になっていました。
 ここでは、水圧を調べるため少しずつ掘ったところ、溶岩層の間からと下の砂礫層からは何れも地表近くまでの高い水圧をもった地下水が湧き出してきました。昔は柿田川の水源から下流300mあたりまで川底から湧水が湧き出すのが見られたということなので、溶岩層はその間で順次に末端になって終わっていると思われます。また、湧水は約3000年前の軽石の層を突き破って湧き出しているので、柿田川が現在のように流れるようになったのは2000年前頃からと思われます(図3)。
図-4 白糸の滝のメカニズムスケッチ

■白糸ノ滝

 これまでは地面の下の様子を説明してきましたが、今度は白糸ノ滝を眺めてみましょう。滝壷の近くから地層を見ると、下半部は主に角れきを含んだ泥っぽい地層が崖をつくっています。これが古富士火山の泥流層です。その上に3層の玄武岩溶岩が重なっているのが見られます。これも、今から約1万年前、富士山の山頂近くで噴出し西へ流れ、ここまできた白糸溶岩なのです。よく見ると、溶岩層の間、溶岩層と泥流層の間から湧水が噴き出して白糸のように見えるのがよくわかります。
滝というのはふつう川の流れが崖のところで落下するのを指しますが、白糸ノ滝は溶岩層の間から湧水が噴き出しているのが特徴です。しかも、富士山の雪融けが始まったり、富士山に大雨が降ったりすると、噴き出す勢いが急に強くなることもわかります(写真,図4)。 (土 隆一)
写真 白糸の滝
写真:白糸ノ滝