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6.フジアザミの特性

1.フジアザミはどんな植物か

 フジアザミは、日本列島中部の低山帯から亜高山帯の砂礫地や雪崩跡地に生息する大型の多年生草本植物です。キク科の植物で、ふつう花と呼んでいる部分には写真1のように細い冠状の花が多数集まり頭花を作っています。頭花は直径10cmにもなって、日本列島に分布するアザミの仲間ではこれほど大きくなるものは他にありません。


写真1

地表面には大型の根生葉(ロゼット葉)を発達させますが、芽生えてから4~5年たつと1枚の根生葉は、長さ60~70cm、幅20cmにもなります。根生葉は、根元から放射状に地表面を被うように広がるので、1つの個体の葉の広がりは直径1mを越す大きさになります。
多年生草本植物の特色から、芽生えた後は年ごとに大きくなって、4年から5年で最大の大きさに達します。これまで富士山周辺で観察した最大の個体は、根生葉を広げた状態を上から見ると直径が約1.5m、花茎の高さは約1mにもなりました。葉の形は長楕円形で、葉の裂片の先端には触ると痛い鋭いトゲが発達します。
根は伸長が早く3年目で50cmほどの直根になります。6~7年目になると長さは1m以上、太さも直径7~8cmで野球のバットほどにもなります。



2.フジアザミはどんなところに生育しているか


写真2


写真3

 フジアザミは、富士山を中心に、日本列島中部の低山帯から亜高山帯に広く分布しています。現在の富士山は、よく知られている美しい成層火山です。スコリア層の斜面では、表面の礫が移動しやすいため、植物群落の遷移段階としてはパイオニア植物が侵入している状態であるといえます。御殿場太郎坊付近では広くスコリア層が露出していますが、ここにはすでにパイオニア植物群落が成立しています。フジアザミはまさにこのパイオニア植物群落を構成している重要な種類です。
写真2と写真3は富士山の南面、御殿場太郎坊の付近です。スコリアの裸地にフジアザミが広く分布しています。近づいてみるとこの他にフジハタザオやミヤマオトコヨモギなどの小型のパイオニア植物も分布しています。
富士山でフジアザミが集中的に分布している場所は、富士山南東面の御殿場・双子山の周辺(標高1,400~1,800m)です。双子山は富士山の側火山で、この北側は「アザミ塚」と呼ばれているように古くからフジアザミの個体数が多く、密度の高い場所でした。
また、フジアザミは、中部山岳地域の亜高山帯にも広く分布していて、静岡県側では安倍峠の上流、大井川の中流、水窪の河川敷などに、山梨県側では八ヶ岳の裾野から釜無川の上流、長野県では八ヶ岳の亜高山帯の崩壊地、南アルプスの野呂川上流域、北アルプスの梓川上流、さらに日本海側では、石川県白山周辺などにも見られます。多くは人為的な撹乱により裸地が生じた場所ですが、その他に崩壊地、河川敷、雪崩跡地にも分布しているものです。



3.フジアザミの一生

 フジアザミの成長は前年の秋に成熟した種子が春に発芽することから始まります。富士山の太郎坊周辺では5月の中旬に発芽が始まり、まず第一葉として丸い双葉が地上部に出てきます。その後、第二葉からは葉の縁に鋸葉(ギザギザの葉)が現れ、気温が上昇すると急速に成長していきます。7月から8月にかけて、何枚かの葉が放射状に広がり、現存量としては最大になります。そして秋には地上の根生葉が枯れ、地中に越冬芽を残します。
2年目は5月から6月にかけて、地表面から2~3cmの深さにある越冬芽が伸びはじめ、やはり8月に現存量が最大になります。成長の初期には、前の年に地下の根に貯えた貯蔵物質を使って大きくなるため、1年目よりはるかに大きなロゼット葉となります。
3年目も同じように成長し、現存量が増加して行きます。条件が良ければ3年目から花をつけることもありますが、ほとんどは4~5年目くらいから大型の頭花をつけます。それ以降は7~8年目くらいまで、成長をくりかえし、年ごとに、ロゼット葉、根、頭花の量が増えていきます。
芽生えてから7~8年が経過すると、寿命が来て株全体が枯死します。


4.フジアザミの役割


写真4

 最大に成長した個体は、ロゼット葉を広げた状態で、直径がほぼ1.5m、葉の数は10枚くらいですが、これくらいになると、地下の根は太くなり、長さ1.5mにもなります。この根の状態から、フジアザミは「砂礫地に杭を打つ」と言われるのでしょう。また、現存量が最大になると、頭花の数も増えて、大きなものでは頭花を5~6個つけ、種子の数は1個体で1,000粒ほどになります。
フジアザミは、日本に自生するアザミ属の中では最大の頭花をつけ、多量の種子を作ります。種子の重さを測定してみると、重量の差で3~4倍の幅があります。写真4は秋に種子が成熟し、パラシュートのような冠毛がついているじょうたいです。この種子は風や上昇気流に乗ると何キロメートルも移動することができるのです。
種子の生産量は年を追って増加し、5年目では平均して、1つの頭花にはほぼ200粒の種子が成熟し、その頭花は、多いものでは1株に10個もつきます。これらの頭花の種子が成熟し、土の上に落ちると、面積(㎡)あたり80~500粒が土の中に入り越冬します。これらの種子は、発芽率が高くほぼ90%発芽する能力を持っているので、親個体の近くに落下すると、多数の実生が翌春に出現することになります。


写真5

火山や雪崩などでできた裸の斜面は植物に被われるまでにずいぶん時間がかかります。裸地に最初に定着できる植物をパイオニア植物といいます。フジアザミはこのパイオニア植物に属しますが、パイオニア植物となるにはいくつかの条件があります。
1.種子を沢山つくること。2.種子に翼や冠毛などの付属器官がついていて遠くに飛べること。3.発芽しやすいこと。4.根が速く伸びること。5.根が大きくて強く、動きやすい斜面に杭を打つように伸長すること。6.光を十分に受けて光合成をさかんに行うこと。
フジアザミは上の条件をすべて兼ね備えています。このような能力をもつフジアザミは発芽して群落を作ると斜面の安定に強力な役割を果すことになります。写真5は富士山の崩壊地の急斜面にフジアザミが生育して、表面の礫の移動を止めている様子を示しています。

(静岡大学 増沢武弘)