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4.青木ヶ原樹海

レーザー光線の威力で青木ヶ原の地形が見えた
富士山の青木ヶ原樹海は、昼でも暗く磁石もきかないので、迷い込んだら出て来られないという伝説があります。たしかに、これまでの空中写真から地形図を作る方法では、樹海の地表面が良く見えず精度の高い地形図は作成できなかったため、そういう伝説が生まれたのかも知れません。
青木ヶ原樹海を作った青木ヶ原溶岩流は、今から約1,100年前の貞観(じょうがん)噴火によって流れ出したということは知られていますが、詳しいことはあまりわかっていませんでした。
たとえば、正確な分布範囲、火口や溶岩トンネルの位置や形状は良くわかっていません。さらに、古記録には青木ヶ原溶岩流によって「せのうみ」という湖が埋め立てられ、西湖と精進湖に分かれたとありますが、「せのうみ」がどんな形をしていたのか、どのくらいの深さがあったのか、これまで調べた人はいませんでした。
図1 青木ヶ原溶岩流分布域のレーザープロファイラ立体画像
▲図1 青木ヶ原溶岩流分布域のレーザープロファイラ立体画像
 でも、これを調べないと、過去3,200年間の富士山でもっとも大規模な溶岩流噴火であった貞観噴火の正確な推移や規模などがわからないのです。富士砂防事務所では、青木ヶ原溶岩流の範囲について最新式のレーザー光線を使った地形図を作成しています。この技術は、上空の飛行機から樹海の木の隙間に見える地面に向けてレーザー光線を発射、往復する時間を計測して地面の高さを正確に計るものです。最近になってその作業がほぼ終わり、すばらしい地形が見えましたので、ここに紹介します。深い樹林で覆われる前の、青木ヶ原溶岩流の様子が、およそ1,100年ぶりに明らかにされたのです(図1)。
アジア航測(株)・千葉達朗静岡大学・小山真人

●GNSS(Global Navigation Satellite System / 全球測位衛星システム):日本の「QZSS:Quasi-Zenith Satellite System/準天頂衛星システム・みちびき)や米国の「GPS(Global Positioning System/グローバルポジショニングシステム)」など複数の衛星測位システムの総称
●GPS:複数のGPS衛星からの電波を受信して、自分の位置を求める装置で、カーナビの高性能なもの。航空機のXYZ座標を求めることができます。
●IMU:ジャイロを使った装置で、航空機の姿勢、3方向の傾きを求めることができます。
●レーザー測距装置:航空機から地表までの距離をはかる装置です。上空2,000mを秒速70mで飛行しながら、1秒間につき約33,000地点の高度を測定することができます。
図2 レーザープロファイラの計測方法

 今回作成された地形図の一部を拡大して見てみましょう。天神山スキー場のすぐ南にある氷あな(こおりあな)火口列は、青木ヶ原溶岩流を流出させた火口の一つですが、深い樹林に阻まれ、空中写真ではその位置や分布を確認することは困難でした。図3に従来の地形図、図4にデジタルカメラカラー画像を示します。どちらの図でも、火口列の位置や形はわかりません。ところが、同じ範囲をレーザープロファイラで作成した地形図には、氷穴火口列がはっきりと見えています。図6は、このデータをもとに作成した立体画像で、溶岩流のつくる細かな凸凹や登山道の位置や形状などまで良くわかります。
このような詳細な地形データをもとに、噴火の経緯の解析が進めば、1,100年前の富士山の大噴火の詳細が明らかになるのではないでしょうか。
図3 航空写真測量による地形図
図3 航空写真測量による地形図
図4 デジタルカメラカラー画像
図4 デジタルカメラカラー画像
図5 レーザープロファイラによる等高線図
図5 レーザープロファイラによる等高線図
図6 レーザープロファイラ立体画像
図6 レーザープロファイラ立体画像