越美山系砂防事務所 国土交通省 中部地方整備局

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クマタカ通信

vol.192 大学生3名がキャンプ砂防 in 越美に参加

2019年10月16日

クマタカ通信 vol.192


3名の大学生がキャンプ砂防 in 越美に参加しました

キャンプ砂防は、砂防を専攻する学生を対象に、全国各地の直轄砂防事務所で毎年実施しています。2019年8月に越美山系砂防事務所が開催した「令和元年度キャンプ砂防 in 越美」には、砂防に関心を持つ3名の大学生が参加しました。


期間 2019年8月19日(月)~23日(金)
場所 越美山系砂防事務所及び管内(岐阜県本巣市、同揖斐郡揖斐川町)

カリキュラム
1日目:開校式、事業概要説明、砂防施設点検(矢中谷第2砂防堰堤)
2日目:砂防工事体験、猛禽類調査(高地谷第1砂防堰堤)、砂防施設設計合同現地調査(揖斐川町内、本巣市内)
3日目:崩壊地調査(揖斐川町徳山白谷)、横山ダム視察
4日目:住民説明(里山探検隊ナンノ谷ウォーク)、魚道・流砂量観測(坂内砂防堰堤)、崩壊地観測(本巣市内)
5日目:工事安全パトロール(村之谷第1砂防堰堤、大谷川第3砂防堰堤)、ドローン操作訓練、閉校式

キャンプ砂防とは

砂防を専攻していたり砂防に関心を持つ大学院生や大学生を対象に、砂防の意義・役割を中山間地域に生活する人々との共同作業や生活を通じて体験的に学ぶことにより、砂防に対する認識を深め、重要性を理解することを目的として、1998年から毎年全国の直轄砂防事務所で実施しています。

越美山系砂防事業管内は、標高1,300m級の山々が連なる険しい地形を持ち、そこに無数の活断層が走る脆弱な地質となっています。これに加えて、年間降水量が3,000㎜を超える岐阜県随一の多雨多雪地帯という、非常に厳しい自然条件が重なる地域であり、土砂災害が発生しやすい地域です。キャンプ砂防 in 越美では、そのような越美山系砂防管内の人々の暮らしと砂防事業の関わり、砂防事業の一連(調査段階から設計、工事、施設点検まで)を学ぶことで砂防関係事業に対する理解を深め、土砂災害防止に関する意識を向上させることを目標としました。

参考:キャンプ砂防2019ウェブサイト(外部リンク)

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1日目:8月19日

開校式でキャンプ砂防が始まります。キャンプ生はオリエンテーションと事業の概要説明を受けた後、職員とともに現場に出発しました。越美山系砂防事務所では管内の砂防施設の定期点検を毎年実施し、施設の機能が正常に発揮されているか、破損や異常が無いか確認を行っていますが、今回は1976年に完成し、後に流木止めの施設を設置した矢中谷第2砂防堰堤を訪れ、職員の説明、指導を受けながら点検しました。

開校式(越美山系砂防事務所)

砂防施設点検(谷中谷第2砂防堰堤)

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2日目:8月20日

高地谷第1砂防堰堤の工事現場では堰堤の施工天端に立ち、ソイルセメントと保護コンクリートの出来形を確認しました。工事監督担当の職員や工事を受注した建設企業の社員から、多くの建設産業従事者が携わり様々な工程を経て施設の完成に向けて進む工程の説明を受けました。

その後管内に生息する猛禽類調査に参加しました。越美山系砂防事務所では工事の際に発生する音や振動が猛禽類の生息に影響が生じないか毎年モニタリングを続け、環境の悪化が想定される場合は工事手順の見直しなどを行っています。今回はモニタリング業務を行うコンサルタント企業の社員から観察手法などの説明を受けました。

午後は砂防堰堤の整備を計画している渓流に移動し、設計業務を受注したコンサルタント企業と合同の現地調査に参加しました。現地の地形、地質、植生、流況、サイトへのアクセス、守るべき保全対象の家屋など、現地に行かなくては判らない、判断できないことは数多くあります。職員とコンサルタント企業の社員が現地で協議、確認することでその後の設計作業を効率的に進めることができます。キャンプ生は砂防堰堤の設置に適した場所や設計時に留意すべき点などの質問を交わしていました。

砂防施設設計合同現地調査(本巣市内)

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3日目:8月21日

砂防事業を進めるためには過去の災害履歴や上流の源頭部や源流の荒廃状況を確認することは重要です。徳山白谷には1965年9月の奥越豪雨によって深層崩壊が発生した大崩壊地があります。崩壊した土砂が下流に移動し災害を引き起こすことを防ぐため、奥越豪雨後に岐阜県や当時の建設省等によって対策工事が進められました。砂防堰堤や山腹工の整備により現在は土砂の移動や流出が抑えられ植生も回復しています。キャンプ生は災害後に整備された砂防堰堤や山腹工の効果や機能を確認しました。

次に国土交通省の横山ダムを訪れ、国内では珍しい中空ダムの内部見学とともに横山ダムの職員から、横山ダムの諸元や洪水調節などの役割について説明をうけました。一方、横山ダムの堆砂を軽減するために砂防施設が整備されてきたことについても、この機会に越美山系砂防事務所の職員で補足説明を行いました。

徳山白谷大崩壊地

横山ダム堤体内

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4日目:8月22日


越美山系砂防事務所では、流域の住民が砂防事業や土砂災害対策の現場を訪問し事業の理解を深めるための参加型イベントの里山探検隊を毎年開催しています。今年度はキャンプ砂防の期間と重なったことからキャンプ生も参加しました。事業を進めるためには住民の理解や協力が必要です。また、災害時に住民自ら安全を守るためには防災施設に頼るだけでなく避難行動が重要です。砂防事務所は砂防堰堤の整備を進める一方で地元の防災訓練などで土砂災害対策や住民の避難の重要性を説明し、地域全体の防災力向上に努めています。今回の里山探検隊は揖斐川町坂内川上のナンノ谷にある1895年に発生したナンノ谷大崩壊地や5基の砂防堰堤を見学しました。職員が事業や防災への理解が深まるよう土砂災害対策や避難の重要性を説明。職員に倣い、キャンプ生も参加者との交流を試みていました。

里山探検隊の終了後は坂内砂防堰堤に設置されている魚道と流砂量観測施設を見学しました。流量の多い本川に位置するいくつかの砂防堰堤には魚類の移動できるように魚道が設置されています。また、坂内砂防堰堤には上流から流れてくる砂の量を計測する流砂量観測施設と呼ばれる装置が付属しており、計測された砂の量は砂防の計画を考える上での基礎データとなります。キャンプ生は現地で職員から魚道や施設の説明を受け質問を繰り返していました。

本巣市内の蛇抜谷には崩壊地があり、下流には揖斐川の支川根尾川や国道157号などがあります。2016年から越美山系砂防事務所では崩壊が拡大し被害が発生することを防ぐため対策工事の準備を進めると共に、国道の管理者である岐阜県と連携して崩壊地の監視観測を行っています。キャンプ生は遠隔操作が可能なカメラ、0.1mm単位で地盤の移動を計る伸縮計、土石流が発生した場合にワイヤーが切れてアラートを発生するワイヤーセンサなどの設置状況について職員から説明を受けました。

集合写真(ナンノ谷)

里山探検隊ナンノ谷ウォーク

魚道見学(坂内砂防堰堤)

崩壊地観測(蛇抜谷)

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5日目:8月23日

最終日は工事安全パトロールに参加しました。越美山系砂防事務所では工事現場の安全確認のため、工事監督職員と工事受注企業の現場代理人などが各工事現場を順番にパトロールしています。様々な現場を多くの人がパトロールすることで不十分な安全対策や秀でた対策を確認、発見することが可能となり、各工事現場全体の安全対策をより向上することができます。今回は揖斐川町内の村之谷第1砂防堰堤と大谷川第3砂防堰堤のそれぞれ工事用道路工事の現場を訪問し、安全対策の状況について両現場の責任者から説明を受けました。キャンプ生からは「トイレの囲いがきれいにできている」、「開口部のローピングがつながっていない開いた所がある」といった指摘が出ていました。

午後には事務所に戻り、調査や点検の時に利用するドローンの操作体験を行いました。越美山系砂防事務所ではカメラが搭載されているドローンを調査などに活用しており、職員は操作訓練を行っています。ドローンの活用により災害時の調査などが安全かつ効率的に行うことができるようになり様々な場面での利用が増加しています。キャンプ生は職員の指導を受けながら事務所駐車場で操作を体験しました。

閉校式ではキャンプ生に修了証を授与した後、感想をそれぞれ述べました。また、キャンプの成果としてキャンプ生から以下のレポートが後日提出されました。

ドローン操作体験

閉校式

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キャンプ生研修レポート(抜粋)

1 農学部3年生

砂防堰堤はその地域の地質条件や気候等様々な要因を考えて設計されていると分かった。砂防堰堤をつくるためには多額の費用が悪化利それを動かすためとても慎重な計画が成されていることも分かった。施工中にも環境に配慮して工事がされていたり、安全を意識した方法がとられているということも分かった。作ったあとも点検をして異常がないかをチェックするようにしたり新たに問題になってきた流木等を対象として既存の堰堤を改修したりと、その砂防堰堤が力を最大限に発揮できるようにしていると分かった。

過去の砂防堰堤を見て昔の人の偉大さを知り、しかも構造上の欠点もあることも知り、砂防というものが技術が発達してより良いものになって行ったのだと感じた。砂防堰堤は計画から施工まで様々なステップを踏んで多くの時間をかけて造るものと知り、周りとの交流や確認が非常に重要だと分かった。

自分の今学んでいる自然環境という点にも色々な面から配慮されていると知り良いと思った。センサーやカメラ等で実際に作業している人や近隣の人に早く危険が知らされるようになっていると知り、点検でも必ず複数人で行ったりロープで固定する等していると聞き安全に多くの配慮がされていて良いと思った。砂防堰堤は天端や水通し等、土石流の衝撃力や流量が考慮されていて複雑なものであると理解すると同時にその構造に魅力を感じた。砂防は今後も非常に重要なものでありそこで働いて計画、設計、施工、管理と様々な仕事をしている人は偉いと思ったし敬意をもった。


2 生物資源学部2年生

流木対策事業として、流木止めが設置されることで重量が小さくなる分、アンカーという施工をすることで、補強し安全性を高めている。今までの不透過型砂防堰堤は川の勾配が緩やかになるが、土砂の上にさらにたくさんの土砂が積もるため、徐々に下流に流れていってしまう。しかし、透過型砂防堰堤は大雨で土石流が発生した時のみ大きな岩や流木、土砂が堰堤に引っかかる仕組みになっているため、水は普段通り流れていくというメリットがあると分かった。

合同現地調査では、堰堤を作るにあたって車両が通るルートの確認、障害物はどうするのか、堰堤の規模はどれくらいになるのかを確認する。いくつかの案の中で、デメリット・コストが少ないのはどれか、近隣住民の理解を得られるのはどれかを考慮することが大切だと分かった。砂防堰堤の建設工事を行うまでに、住民への理解、金銭面、生態系に関することなどたくさんやるべきことある。

キャンプ砂防に参加するまで、砂防事業はダムを作ることくらいしか知らなかったけど、堰堤を作るための調査、猛禽類の調査、工事現場のパトロールなどたくさん事業があると分かった。調査では、砂防事務所の人達だけでなく、色んな企業の方達とも協力して砂防堰堤を作るための計画をたくさんやる必要があると初めて知った。

砂防事業は規模が大きいので、工事などに費用もたくさんかかると思うけれど、残存型枠組み砂防ソイルメントなどを使うことで、効率よく費用を削減していることが分かった。また、ダムを作ったらその周辺の生態系がかなり破壊されると思っていた。しかし、タカなどの活動範囲・巣の場所を認識したり、透過型砂防堰堤を使って水の流れをせき止めないようにしたりする事で、生態系を守る活動をしていると分かった。ダムを作ったら魚は上流から下流にしか行けなくなるけど、魚道を作ることで下流から上流に移動することができると知って、そこまで工夫しているのはすごいなと思った。


3 生物資源学部2年生

キャンプ砂防のホームページの実施内容例を見たときに砂防ソイルセメント工法のことを知って、この工法を採用した理由などを知りたいと思いました。2日目に現地に訪れ実際に近くで見させてもらい、多くのことを学ばせてもらいました。砂防ソイルセメントは砂防工事の掘削で生じる現地発生土砂とセメントをまぜることで、セメントの材料費を抑えることでコストを削減していることを知りました。しかし、砂防堰堤の規模が比較的小さいときなど、砂防ソイルセメントの用い方によっては、混ぜる工程などにより逆にコストがかかってしまうというのは驚きました。砂防堰堤を建設するときには、材料や形などを、その地形・地質にあったようなものを計画設計する必要があることが分かりました。

砂防堰堤を建設しようと計画する所から建設開始までに、建設コンサルタント会社の方との話し合い、市町や、住民の方々の理解や賛同、建設するときに使用する土地の確認、保証金の手続きなどだけで約5 年かかり、14.5メートルぐらいの不透過型の砂防堰堤の本堤を作るのに4年ほどかかるということを知り、改めて砂防事業というのは、労力と時間がかかる大規模な事業だということが分かりました。

人間が普通なら踏み込まないような場所に踏み込み、砂防堰堤の調査を定期的に行っていることを知りました。これだけの多くの手間をかけることにより、人間の安全を守っているのだと思うと、砂防事業を仕事にするということはとても誇りの持てるものだと感じました。また、このような事業があることによって、私たちの生活が守られていることが身に染みてよく分かりました。

ただ砂防堰堤を施工しているのではなく、周りの自然環境、生態への影響を調査すること、施工する場所が地質や目的に適しているのか、また、例えばこの流域は大型の石や倒木が多く発生する可能性が高いから透過型の砂防堰堤にしようといったような、どの形の堰堤を設置するのかなど、様々なことを検討して施工が行われていることが分かりました。

越美山系砂防事務所は砂防に関心を持つ学生を応援しています。

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