令和2年6月19日、長野県伊那市高遠町赤坂の栗ノ木立川において、強靭ワイヤーネットを利用した砂防堰堤が完成し、報道機関向けに現地説明会を行いましたのでその内容を紹介します。
三峰川流域山室川上流に位置する栗ノ木立川では、平成30年9月4日の台風21号の後に土砂による河川の濁りが確認され、調査の結果、最上流部での法面崩落が確認されました。続いて同年9月30日の台風24号の後にも法面崩落が確認されました。これを受け上流部に土石流発生検知用のワイヤーセンサーを設置し監視体制を整えました。本年度4月に川の濁りが再度報告されたことを受け、調査を実施した結果、平成30年と同じ箇所で崩落の拡大を確認しました。
今回新設した砂防施設の上流100m付近には直轄の栗ノ木立砂防堰堤があり、下流100m付近には長野県管理の砂防堰堤がありますが、2基とも堆砂が進んだ状態です。さらに栗ノ木立川上流部には多量の不安定土砂の存在も確認されて、土石流に対する迅速な対応が求められています。
堰堤(県管理)の上部に堆積した土砂
堰堤(県管理)の下流側
そこで、今後想定される落石及び土砂災害を未然に防止するための工法として選択したのが「強靭ワイヤーネットによるリングネット工法」です。平成26年8月豪雨の際の広島市内での土石流災害復旧対策がきっかけとなって全国に普及し、長野県内の直轄工事で5例目、当事務所管内では初の事例です。
このリングネット工法とは高エネルギー吸収落石防護柵であり、リング状に編んだ金網(リングネット)及びこの金網を吊り下げ保持するサポートロープ等によって、土石流の運動エネルギーを吸収するとともに、土砂や流木等を捕捉します。
完成したリングネット工法
今回完成した砂防施設は幅15m、高さ5.5mの大きさで、時速約20kmで流下する土砂を2,400立方メートル捕捉することが可能です。この工法の特徴としては、1.設置時に河床掘削が少ないため、水の汚濁や魚類などの水生生物の生息に影響を与えにくい構造である。2.構造物背面が透けて見えるため、景観への違和感が少ない。3.施工期間が短く、構造部材は軽量のため現地搬入と設置が容易である。という点が挙げられます。今回の施工でも約2か月間という短い工事期間(調査期間は除く)で完成しました。
また、リングネットの設置とともに、下流の砂防堰堤の堆砂敷(約200立方メートル)の除石作業も実施しており、今後は上流の直轄砂防堰堤の除石作業も予定しています。
この工法は魚などの生物の移動や景観面への利点もある
リング状のネット構造が土石流のエネルギーを吸収する
今回の栗ノ木立川では、川の濁りについて住民のみなさまから情報提供いただいたことにより、砂防対策を迅速に実施することができました。
今後も流域のみなさまとともに、みなさまの生活の安全・安心を確保するため、土石流対策などをはじめとした砂防事業に取り組み、防災・減災対策を進めてまいります。