ふじあざみ66号(2)
富士山の基礎知識 富士山に見られる、噴火災害の多様性。 富士山は、長い歴史の中で多様な噴火を起こしており、またそれぞれに火口の位置も異なるなど、様々な噴火の可能性を持った火山といえるでしょう。
大量のマグマを噴出した貞観噴火

貞観噴火と青木ヶ原樹海画像

 864年(貞観6年)の貞観噴火では、北西麓の火口から大量のマグマが噴出しました。歴史書『日本三代実録』の記述や、実際の溶岩流の地質調査から、噴出したマグマの大部分が溶岩流となり、比較的穏やかに流れ広がったことがわかっています。溶岩流は、土地に与える被害は壊滅的である一方、粘性が比較的高いため流下スピードは遅く、速やかに危険地域から避難すれば人命被害を最小限に抑えられる可能性があります。ただし富士山が冠雪する時期には、溶岩が高温によって積雪を溶かし、泥流や土石流を発生させる可能性も考えられます。1926年(大正15年)の十勝岳噴火では、噴火によって山腹の残雪が一気にとけ泥流が発生し、144名の死者不明者を出す大惨事を引き起こしました。泥流・土石流は流下のスピードも自動車のように早く、また多くの土砂や倒木と共に流下し家屋や橋などに甚大な被害を及ぼす恐れがありますので、富士山が冠雪する時期にはこうした二次的被害の発生にも注意が必要です。

降灰が東麓を埋め尽くした宝永噴火

 今から300年前、1707年(宝永4年)には、有史以来最大級となる宝永噴火が発生しました。爆発的な噴火は、大量の軽石や火山れき、火山灰を噴出。それらは偏西風に乗って、富士山の東側一帯に降り積もり、遠くは現在の千葉県にまで及びました。その降灰により東麓に点在した村々は壊滅状態となり、特に火口に近い須走村は、堆積した火山れきや火山灰の厚さが2mを超え、噴石は大きいもので直径20cmほどにもなりました。このように軽石や火山れき、火山灰を噴出する噴火の場合、日本の上空を絶えず吹いている強い西風、偏西風によって噴出物は東側に降り積もります。富士山の東側斜面が西側に比べてなだらかなのはこのためです。しかし季節によって風向きが変わるため、その場合には気象情報と併せた判断が必要です。また降灰の後に降雨があった場合には、泥流や土石流の発生による二次災害にも注意が必要です。

宝永噴火画像
宝永噴火

大規模な火砕流を伴った約3,200年前の噴火

 富士山の円錐形は、火山れき、火山灰を噴出する爆発的な噴火と、マグマを噴出する噴火の数多く繰り返したことによって形成されたものです。しかし約3200年前には、こうした噴火とは異なる、火砕流を伴う噴火も発生しています。火砕流は、数百℃に及ぶ高温に加え、時速100km超えるほどの高速で流下する、最も危険な火山現象の一つです。1991年(平成3年)に雲仙普賢岳で発生した火砕流では、その猛スピードに逃げ遅れた43人の方が亡くなっています。

約3,200年前の噴火図
約3,200年前の噴火

 このように、火山の噴火は様々な現象を伴うため、その現象によって避難時にとるべき行動が異なります。これまでの歴史の中で、多様な火山現象を伴ってきた富士山。その火山防災を考える上では、起こりうる火山災害の多様性を踏まえ、状況に対して適切な避難行動をとることが不可欠です。


火山災害に備えて

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