ふじあざみ58号(3)
富士山に寄せる想い 富士山源頭域調査工事について

富士山源頭域調査工事について

富士山源頭域調査工事 現場位置写真
富士山源頭域調査工事 現場位置

 富士山の西斜面に現在も崩壊を続けている「大沢崩れ」があります。大沢崩れは潤井川の源流で、昔から大雨が降ると土石流を流下させ、下流に幾度も土砂災害をあたえてきました。
 昭和57年に崩壊を止める為に『どんな工法が効果的か』等を調査するため源頭域調査工事が始まりました。工事期間は雪の影響で7月頃から11月頃までの4~5ケ月しかありません。
 そんな工事現場に私は新入社員として初めて携わって以来、今回で12年目となりました。当時の私は、毎日怒られてばかりで楽しい記憶はありません。仕事が全く分からないうえに富士山の特殊な現場条件。怒られるたびに(いまに見ていろ)と心の中で呟く。その繰り返しばかりでした。

平成16年度施工の4の滝保護工写真
平成16年度施工の4の滝保護工

 小学6年の頃、夏休みの家族旅行で富士山に出かけたことがあります。富士山の五合目に着いて直に車から外に出たのは良いのですが、辺りはガスで真っ白(雲の中)でした。季節は夏だというのに10分も経たないうちに寒くてガタガタ震えながら車の中に戻り、「ここはどこなのだろう、別世界ではないか」と感じたことを思い出します。
 そんな富士山でも楽しいこともあります。それは、仕事が休みとなる雨の日に山の奥深くに入って行うキノコ(マツタケ)取りです。
 その時だけは仕事を忘れひたすら探しまくります。ある日、実物を見せてもらった時には驚きました。色は白くて形は悪い、想像していた物と違うけれど匂いはマツタケ。これは今さっき、帰る途中で見たキノコかもと思ってあわてて戻ったけれど、その場所に戻る事ができないまま悔しい思いもしました。その日から『怪しかったらまず匂いを嗅げ』これを実行しています。(編集部注:キノコ採りには入山鑑札(有料)が必要です。)

源頭域調査工事現場写真
源頭域調査工事現場

 富士山ではいろいろな経験をさせてもらいました。その中でも山小屋での生活を今でも思い出す事があります。現場(大沢崩れ)への通勤による疲労を軽減するために利用した山小屋での生活ですが、疲労感はなくても隙間風による寒さは耐えがたいものでした。当時は山小屋泊か通勤かどちらかを選ぶということでしたが、現在は一部で稼動しているモノレールを利用することで、毎日通勤可能になっており、皆通勤しています。
 そんな山小屋生活最後の経験者である私も7年ほど前から現場の責任者として調査工事に携わっています。今でも富士山の寒さには慣れませんが、やりがいのある現場であり、富士山の大沢崩れの進行を少しでも遅く出来るようこれからも頑張っていきます。

■プロフィール

谷 岡 一 弥(たにおか かずや)氏
谷岡一弥氏写真
昭和63年 大旺建設株式会社入社
現在、名古屋支店工事部主任

平成17年度 富士山源頭域調査工事現場代理人

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