ふじあざみ56号(2)
基礎知識 富士山をレーザー光線で診る

富士山の地形

 富士山の円すい形の広い裾野は、緑に覆われており、遠くからみるととてもなめらかな地形に見えます。これは樹林の表面の高さ(樹冠の高さ)がよく揃っているためです。ところが、実際に現地に行ってみると、樹林の下には溶岩流や火砕流・土石流の堆積地形など、とても複雑な地形であることに驚かされます。

航空レーザー測量

 2005年富士山南西斜面を中心とした広い範囲について航空レーザー測量を実施しました。(465km2)すでに、平成13年度に青木ヶ原地区についてはレーザー測量を実施していましたが(95km2)、今回はその範囲を拡張し測量を実施しました。「ふじあざみ」第38号・第42号)。
 レーザー測量とは、近年急速に発達してきた地形測量方法です。上空を水平飛行する航空機から、ほぼ真下に向けてパルス状にレーザー光線を発射します。そしてレーザー光線が地面で反射して戻ってくるまでの時間を測定して、地面の高さを精密に把握するという方法です。飛行機の位置や傾きの測定は、カーナビゲーションシステムと同じ人工衛星を利用して地球上のどこにいるのかを正確に割り出すシステムを使用します。
 レーザーパルスは毎秒5万回、1m四方に1点以上の高密度になるように発射するので、樹木の隙間を通って、地面まで到達することができます。太陽光の差し込まない深い谷や火口のような窪地でも測定が可能です。
 測定後、計算によって高い樹木部のデータを除去することにより、樹木の下にある本来の地形データを得ることができます。これらのデータは、砂防施設の設計に利用する断面図などを正確に作れるだけでなく、現地調査も効率的に行うことができると期待しています。

富士山南西野渓

 富士山の南西側には、たくさんの浅い谷が見えます。その一帯は、富士山南西野渓と呼ばれており、普段は水の流れていない渓流です。この付近には、地形の一般常識と異なり、下流に向かって谷が分岐する地点がいくつかあることがわかっています。このような場所では、発生した土石流が尾根を乗り越えて別の谷に流れ込む可能性があるため、砂防計画を策定するにあたっては、これら複雑な谷の流れ(水系)を把握しておくことが重要になります。

風祭川の地形

 ここでは、下流方向への分岐の例として風祭川の海抜900m地点を詳しく見てみます(図1)。
 図2aに示したのは、この地点の空中写真です。ヒノキやスギの人工林で覆われ、詳しい地形を見ることができません。図2bは、過去に富士砂防事務所が作成した1/5,000地形図です。分岐点の細かい地形がはっきりしていません。図2cは今回のレーザー測量の結果を、等高線で表現したものです。精密な地形が捉えられていることがわかります。図2dはレーザー測量結果を使用して作られた赤色立体地図です。測定された1m解像度の精密な地形をそのまま立体的に見ることができます。
 これらのレーザー測量成果を活用した調査は、これから本格化することになっており、その結果に期待が集まっています。

図1 風祭川海抜900m地点の地形
(国土地理院発行1/2.5万地形図「天母山」より)

図2 風祭川900m地点
図2 風祭川900m地点(a:空中写真、b:既往地形地図、c:レーザー等高線図、d:赤色立体図)

火山活動史解明への貢献

 航空レーザー測量による樹木を除去した地形データは、富士山の噴火の歴史を解明する事にも貢献することが期待されています。ここでは、いくつかの注目すべき地点を紹介します。
 図3は山頂の南側、富士宮口新五合目とその南側の地形です。放射状の谷を流れる不動沢溶岩流(約千年前)の地形がよく見えます。
 図4は、山頂の西側大沢崩れ下流の横崩付近の地形です。この付近には火砕流跡(約3千年前)が分布していることが知られていましたが、今回のレーザー測量によって、樹木の下に火砕流堆積地形が広く分布していることがより鮮明に確認できました。

図3 表富士新五合目付近
図4 横崩付近
図3 表富士新五合目付近
自動車道路と不動沢溶岩流の地形が明瞭(横幅2km)
図4 横崩付近
大沢川の南側は火砕流堆積地形 北側は溶岩流地形(横幅2km)

(千葉達朗/アジア航測株式会社)

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