ふじあざみ56号(1)
ふじあざみ 56号
富士山周辺 鳥瞰図
富士山の歴史を刻む「八百八沢」
 上図は、富士山周辺の地形図を解析し作成した鳥瞰図(立体図)です。これを見ると富士山の表面は、周辺にある深い谷が刻まれゴツゴツした山々とは大きく異なり、円すい形の山体に山頂から麓に向かって放射状に無数の細かい谷が刻まれているのが判ります。これは、富士山が幾多の噴火を繰り返すことによって火山灰や溶岩が山体を覆うために、風雨などの浸食作用による谷の形成期間が短く、十分に発達していないためです。また、これらの谷は富士山が主に溶岩の浸透しやすい地質であることから、普段は水の流れない枯れ沢で、洪水時・融雪時だけに水の流れるという谷がほとんどです。

 富士山ではこれら無数の谷を形容して“八百八沢”と呼んでいます。その中でも山頂を谷頭とする谷は、主に雪崩などが原因となって大規模な谷を形成しています。一方、大多数である中腹部を谷頭とする谷は、主に流水の働きによって、比較的なだらかな斜面上に、幅が狭く、途中で枝分かれする複雑な谷を形成しています。こうして形成された谷は、樹木に覆われていることもあり外見からは容易に判別することはできません。また、広大な面積の地形測量を一気に行うことはとても難しく、これまで山腹全体の詳しい地形は把握できていませんでした。しかし、近年の測量技術の進歩により、その地形が明らかになってきました。次のページではその成果の一部をご紹介します。

 ところで富士山と愛鷹山はどちらも火山活動によって形成された山ですが、比べてみると愛鷹山のみに大きな谷が発達しているのはなぜでしょうか?これは、愛鷹山がこの約10万年の間噴火せず、富士山よりもずっと長い期間、風雨による浸食が続けられてきているためです。これに対し、富士山に大きな谷が発達していないのは、つい最近(約300年前)まで噴火し山体を形成していたため、浸食される期間が短いためです。仮に今後、富士山が火山活動を完全に止めてしまったとしたら、浸食のみが長い期間続き、富士山にも愛鷹山のような深い谷が刻まれることでしょう。いずれにせよ現在も浸食が絶えず続いていることは事実であり、山麓は常に土砂災害の危険にさらされていることを意味しています。

富士山の五合目以上の沢
富士山の五合目以上の沢 地図
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