ふじあざみ 第52号(3)


富士山に暮らす/宝永噴火を生きぬいた「宝永のスギ」 御殿場市の「子之神社」には、「宝永のスギ」と呼ばれる大きな杉の木があります。樹齢約700年と推定されるこの杉の木は、宝永の時代(約300年前)以前に植えられました。では、どうして「宝永のスギ」という名前が付いたのでしょうか。そこには、この巨木と宝永噴火との深い関係がありました。
■大杉は「子之神社」の御神木
 御殿場市にある「子之神社」の敷地内にそびえる「宝永のスギ」はこの神社の御神木にもなっています。子は方角で言えば真北にあたりますが、富士山頂からはほぼ真東に位置しています。
 神社の周辺は田園地帯で視界を遮る物がないため、遠くからもよく目立つこの杉の木は、北側の枝が少し欠けているのが特徴です。北側が欠けていなければ、左右対称の絶妙な美しさを見られたことでしょう。
 宝永年間は1704~11年(今から約300年前)にあたるので、推定樹齢700年とは一致せず、「宝永のスギ」の名は植えられた年ではありません。近年になって、富士山の宝永噴火による砂礫が高い枝の部分に積もったまま残っていたのが発見されました。この杉の木は宝永の大噴火を生きのびた杉の木ということなのです。
 宝永期に400歳ほどだったとすれば、当時既に相当な巨木だったと考えられます。宝永噴火の恐怖におののきながら、当時の人々はこの大杉に無事を祈ったのではないでしょうか。

■県の天然記念物に指定
 宝永4(1707)年の富士山噴火の際、砂礫が一帯を覆い尽くしたにもかかわらず、この杉は悠然と立ち、厳しい状況の中をその生命力で生きぬき、現在でも凛々しい姿を見せています。市内でも最大級のこの杉は、現在のように高くて密集した建築物のなかった昔には、かなりの遠方からでもその姿を望むことができたということです。
 昭和38年には静岡県の天然記念物にも指定された「宝永のスギ」は、高さ33m、枝張りは東西に22.4m、南北に24mの勇姿を誇り、現在でも地元の人々の心のよりどころとなっています。
宝永のスギ
写真提供:
御殿場市教育委員会発行
「御殿場の文化財」より
地図
宝永のスギ
静岡県指定天然記念物(第254号)
【指定年月日】昭和38年2月19日
【所在地】御殿場市柴怒田135(子之神社)


富士山に寄せる想い/大沢扇状地の工事で発生した石を使い旧登山道を復活
 かつて富士山に信仰を寄せる修験者など数多くの登山者が通行した登山道があります。それが「旧村山口登山道」です。現在の富士宮口登山道の基となるルートが開かれて以来利用が少なくなり荒廃が進むこの登山道を修復し復活させようとする地域の住民や中学生がいます。
 今回は富士山の大沢扇状地の除石工事で発生した石を使い、地域の人たちと旧村山口登山道の石畳を復活させようと「一石運動」を積極的に取り組んでいる旧村山口登山道保存会会長 神戸勝さんと、同じく総合学習の時間の一環として、石畳を修復している富士宮市立富士根北中学校の校長 佐野一男さん、同教頭 町田強史さんの3名にお話を伺いました。
■先人の技術力の高さに驚かされる
 富士根北中学校では、総合学習の一環として旧村山口登山道の石畳の整備を平成12年から始めて以来毎年行っています。昨年度からは富士砂防事務所と富士宮市河川課の協力で、富士山の大沢扇状地に堆積した石を材料として石畳を整備しています。
 村山区でも「一石運動」は平成4年の富士宮市政50周年の時に発足、その時は登山道の草刈をするくらいの活動で一旦終結してしまいましたが、富士根北中学に触発され、平成14年から「一石運動」を再度検討し平成15年7月1日の富士山山開きに合わせて再び発足しました。その時は、県外からの参加者もあり『富士山から出たものは富士山に返す』を合言葉に石畳の整備を行っています。
 重機を使わないので石が重たく数十メートル整備するのにもひと苦労、昔の人たち努力はすごかったんだと実際に作業してみてはじめてわかりました。また、私たちがせっかく整備した石畳が、多少のコンクリートで固めるにもかかわらず大雨の時の水で流されてしまうのに対して、現存している旧石畳は全く流されずに残っており昔の人の技術力の高さにも驚かされると言います。
「旧村山口登山道」の石畳
▲「旧村山口登山道」の石畳
富士根中学校の生徒さんたちの活動の様子
▲富士根中学校の
生徒さんたちの活動の様子
旧村山口登山道保存会の皆さん ■美しい富士山を次世代に託す
 この活動はこれからも続けていく予定で、次世代まで引き継いでいって地域の良さを知ってもらいたい、また復活した登山道を散策ルートとして多くの方々に楽しんでもらいたいと旧登山道復活に対する意欲を語られました。
▲旧村山口登山道保存会の皆さん
(写真左から)町田強史氏 神戸勝氏 佐野一男氏
■プロフィール
  神戸 勝(ごうど すぐる)氏 〈写真中央〉
旧村山口登山道保存会会長
  佐野 一男(さの かずお)氏 〈写真右〉
富士宮市立富士根北中学校 校長
  町田 強史(まちだ つよし)氏 〈写真左〉
富士宮市立富士根北中学校 教頭