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国土交通省中部地方整備局は、平成18年1月14日(土)、由比町さった峠駐車場において、由比地すべり対策事業起工式を挙行しました。合わせて由比町は、直轄事業着手を記念して「幸田文・文学碑」の除幕式を行いました。 当日は大雨であいにくの天気でしたが、静岡県知事、国会議員、地元関係者など総勢100名の方々が出席しました。 大村哲夫中部地方整備局長の式辞に始まり、清治真人国土交通省技監の挨拶、冨田陽子富士砂防事務所長の事業概要説明に続き、由比地すべり斜面状況を監視するための監視カメラの点灯式を行いました。式典会場内のモニターに現地画像を映し出しました。 除幕式の概要
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静岡県といわれて、まず思い浮かべるのは海、山、そして温暖な気候だろうか。由比町はそのどれも豊かにめぐまれて、私の想う静岡である。山の斜面には枇杷や夏みかんが植えられて、ここの土地と水、陽ざしを得た実りは、お日さま色に甘酸っぱい。やさしくブルーにけむる空と、大きくひらける太平洋、そのふたつを区切る水平線はぼんやりかすんで定かではなく、吹き寄せる風に地球の丸さを感じる。
由比には不思議と縁があって、これまでに何度かお伺いする折があった。勿論、そのきっかけは祖母・幸田文が書き残した「崩れ」に由比の記述があったことによる。地すべりという、日常の穏やかな暮らしからは思いもよらぬ災害の歴史がこの地を苦しめてきた。山が海へ迫っている地形ゆえ、人が住むに適した平地はわずかしかない。家々の背後につづく斜面、一見なんでもない山を目の前に、祖母は過去に起こったいたましい災害に思いを寄せ、「土よいつまでも平安であれ」と念じた。 今年1月14日、地すべり対策事業の起工式にあわせ、「崩れ」の一節を引いた文学碑の除幕式が行われた。かつて祖母が訪れた「崩れ」の取材地にひとつひとつ建てて頂いている碑の中で、由比は七番目にあたる。 その日は、週間天気予報が出されたときからずっと傘のマークがついたきり、予報は一向に好転する兆しがなかった。天からも、気象庁からも、ひたすらの雨を言い渡されて、会場となったさった峠には白いテントが用意された。聞けば、当日の朝六時から雨に濡れての設営だったという。 激しい雨音を耳にしながらふと思い出すのは、かつてわざわざ大雨の日に静岡県を流れる安倍川を訪れた祖母のことである。穏やかな晴天ばかりがお天気ではない。雨の日に川はどう変わるか、その様子を確かめたくて、祖母はわざわざ案内を乞い、東京から新幹線に乗った。あまりの天候に、まさか本当にやって来るとは思わなかったと案内の人を驚かせたと聞いている。 式典の間中、雨雲と共に祖母もまた暫時天から降りてきて、除幕を見守っているかのような意志のある降り方だった。お披露目となった由比の碑は、富士川の俵石と呼ばれる柱状節理を縦に据え、祖母が見ればさぞ喜ぶに違いない、すっきり整った姿をしている。もとより碑の建立など、身内にはとても力及ばぬことである。 皆様のおかげと心より御礼申し上げ、今後、さった峠を訪れる人に碑が親しまれ、地すべり防止の事業がつつがなく進むようお祈りいたしております。 碑には「崩れ」の中の「由比の家ある風景をみると、その安らぎがあってほっとしたのだが、佇んで眺めていれば、ひとりでに家のうしろの傾斜面をみてしまう。草木のあるなんでもない山なのだ。だが、そこを見ていると、なにかは知らず、土よいつまでも平安であれ、と念じていた」という一節が刻まれている。
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