富士ひのき加工協同組合 理事長 佐野三郎氏
「幸福(しあわせ)を招く富士ひのき」。私たちは富士ひのきを、こう紹介します。霊峰富士のふところで、その恵みと愛情をいっぱいに受けて育った富士ひのきは、大切な富士山からの贈り物です。柱の1本1本、板の1枚1枚に富士の精がやどり、その家に住む人々の心を豊かにし、幸福を招くと言われています。 私たちの組合は、育林・製材・販売・建築の異なる業種が、伐期に達した富士ひのきを優良な建築資材に加工し、販路を広め、その利益を再び富士山の森に還元して富士山を守るという、循環型の事業形態を目指して結成したものです。 ●富士ひのきの森 現在富士ひのきの森は4万ヘクタールほどありますが、そのほとんどが終戦後の国土緑化推進の波に乗って植えられたものです。表土が薄い富士山麓の火山灰地では、根を横に張るひのきが適しており、盛んに植えられました。その後、下刈り・枝打ち・間伐等の育林期間を経て、現在、伐採と加工に最適の時期を迎えています。 ●林業と木材に対する社会の変化 ところがここに、数十年前には考えられなかった時代の変化が起こりました。 まず、安い外国産の木材におされ国産木材の需要が激減したこと。次に、柱の美しさを見せる日本型の家屋が減って、建築材に対する要求が大きく変わったこと。そして、二酸化炭素による温暖化等をはじめとする環境問題。また、欠陥住宅の社会問題化を受け、平成12年4月に定められた品確法(住宅品質確保促進法)の制定などです。 木材価格の下落、さらに消費者の意識の変化は、美しく高価な木材を作ることを常に念頭においてきた日本の林業形態に大きな打撃を与えました。また、多くの製材業者が環境問題と、品確法の施行によって要求される木材の品質管理・規格化の問題等に対処しきれずに撤退を余儀なくされました。その結果、木を伐っても採算がとれない、加工する所もないという事態になりました。 ●将来を見据えた木材加工場 こうした状況は、林業従事者の問題だけではなく、地球環境・自然保護の面でも大きな問題となりました。森林率では世界有数の日本の森を放置し荒れるにまかせることになります。また、年老いた樹木は二酸化炭素を吸収し酸素を排出する能力も衰えます。人工林は常に人の手を必要とするのです。 平成11年11月に稼働を始めた新工場「富士ひのき・くるみの里」は、これらの問題を解決すべく、将来を予測して設計された、最先端をゆく工場です。 まず、工場には焼却炉がありません。原木の皮は綿状に粉砕され(バーク)、家畜の敷きワラ、畑の雑草よけなどに利用されています。チップ・プレナー粉・おが粉も別々に分類されて利用されます。木材を乾燥させるときに出る水蒸気も、水に戻して「富士ひのきの精」として商品化しました。 品確法にもいち早く対応し、ヤング係数(強度)と含有水分を自動測定し、木材1本1本に記入した品確法適合資材を生産しています。