ふじあざみ 第43号(3)

 
富士山に暮らす
富士五湖は山中湖を除いて流出口を持たない閉塞湖であるため、古くから湖水の氾濫に悩まされてきました。人々はこれらの問題を解決するために、様々な努力をし続け、富士五湖と共存、さらには恩恵に変えて現在に至っています。

人々に恩恵を与える富士五湖の放水路

■江戸時代から続く湖水の氾濫対策

 富士五湖は本栖湖・精進湖・西湖・河口湖・山中湖に分けられます。そのうち山中湖を除いては流出口を持たない閉塞湖であるため、古くから湖水の氾濫に悩まされてきました。
 河口湖では江戸時代に150年を費やして湖水を排水する掘り抜き工事が行われました。現在では河口湖にも、本栖湖にも放水路がありますが、それらは発電にも利用されています。
 西湖では1992年に湖面が異常に上昇したことがあります。8月20日から9月14日にかけてほぼ毎週のように台風が上陸または接近し、この間だけで年平均降水量のおよそ3分の2を降らせました。湖面は台風以後にじわじわと上昇を続け、最高水位は平常水位を超えることじつに8.72mで、湖畔の道路は道路標識を頭だけ残して水没し、周りの民家や民宿にも被害がおよびました。このような湖面水位の上昇は数多く記録されています。
 山中湖以外の湖は、大雨による流入・地下水の湧出によって水位が上がりやすいのです。これらの水害を未然に防ぐための事業は様々ありますが、現在フィッシングのポイントとして釣り人たちに人気の、西湖と河口湖を結ぶ「西湖放水路」もそのひとつです。本栖湖の湖水も発電のため地下水路に導かれ常葉川から富士川に流出しています。河口湖の増水被害を食い止めるため県が1993年に建設した嘯(うそぶき)治水トンネルの最大放水能力は毎秒22.21t。全長は河口湖の東岸の取水口から富士吉田市との境のうそぶき山の地下をトンネルで抜ける約1.5kのトンネルです。これら様々な事業によって、富士五湖は近年、増水による大きな被害には見舞われていません。


富士山に寄せる想い
自分の感じたままの富士山を描き続ける

 画面いっぱいの大きな富士山に、荒々しくも雄大な印象を与える大沢崩れの姿。その上空には繊細な飛行機雲が描かれ、それらが絶妙なバランスで見る者の心を打つこの作品は、「第7回富士山への手紙・絵コンクール」絵部門の中学生の部で、見事最優秀賞に輝いた作品です。今回は、この作品の作者、富士宮市立西富士中学校3年生(受賞当時2年生)の中島美早香さんに「富士山への手紙・絵コンクール」を通した、富士山に対する想いを語ってもらいました。

美早香さんの作品 表彰式の一場面
(表彰式の一場面)

■姉弟で描き続けた富士山

 「特別な絵の勉強したことはないんですが、日頃から絵を描くのは大好きで、小さい頃から友達や家族などをよく描いていました。」と語る美早香さん。夏休みの宿題などでも、よく富士山を描いていたと言います。第1回目からずっとコンクールに参加してきた美早香さんですが、先に入賞したのは、なんと弟さんの岳将(たけのり)さんだったそうです。記念すべき第1回目のコンクールで、当時小学1年生だった岳将さんが、見事佳作に入賞したのでした。「あのときは弟が受賞して嬉しい気持ちもありましたが、反面くやしい気持ちもあったんです。(笑)」と正直な気持ちを笑顔で語る美早香さん。「ひょっとすると、あの時の気持ちが、今回の受賞につながったのかもしれませんね。(笑)」と付け加えてくれました。

■大沢崩れに対する複雑な想い
 コンクールに応募された今までの美早香さんの作品には、一貫して大沢崩れが描かれています。
美早香さんが通う西富士中学校は富士山の大沢崩れ直下に位置していますが、美早香さんの場合、理由はそれだけではないようです。「きれいな富士山に対して、荒々しく迫力のある大沢崩れの対比が好きなんです。でも、大沢崩れは毎年崩れていて、富士山にとってはないほうがいいと言うことも知っています。それに、大沢崩れのない本当に美しい富士山も見てみたいですね。」と、鋭い感性をのぞかせる発言も。「小学校のとき、私は参加できませんでしたが、代表の生徒がふじあざみの植樹をしたことがあります。植樹によって崩れを少しでも食い止めるられるのなら、たくさんの小中学校で、もっと積極的にやったほうがいいと思います。それに、気のせいか、富士山のまわりの緑が、段々少なくなっているように感じるんです。」と、富士山の環境問題に進言するコメントもいただきました。

■受賞は嬉しさよりも驚き
 「富士山を描くときはイメージで捕らえる場合が多いです。今回は緑の部分に網を使ったブラシの効果をためしてみようと思いました。思った以上にいい効果が出て、自分でも今までの作品の中で一番気に入っていたので、それも評価の対象になったのかもしれませんね。」受賞の知らせを受けたときは、嬉しさよりも驚きの気持ちのほうが大きかったという美早香さんですが、「弟に対して姉として負けたくないという気持ちもあったので、その嬉しさもありましたね。(笑)」と、本音もちょっぴり出てしまいました。負けず嫌いの性格は、あらゆる方面で発揮され、所属するバスケットボール部ではレギュラーを目指し頑張っています。バスケットボール部は、富士宮市民スポーツ祭で3位に入賞しました。

■これからも自分の感性のままに描く
 「審査委員長の村松先生は、有名な作家だということは知っていましたので、とっても緊張しました。でも、言葉をかけていただいて、とっても嬉しかったです。」と語る美早香さん。「富士山も大沢崩れも見る時や場所、自分の気持ちによっても違ったイメージに見えます。私は人穴から見る富士山が大好きなんです。大沢崩れが真正面に見えて、とても迫力があり、スゴイです。」今回8回目を迎えるコンクールにも出品するという美早香さん。もう構想はできあがっているそうですが、詳しいことはヒミツとのこと。今回応募される方々に、なにかアドバイスのようなことはないか聞いたところ「アドバイスなんてそんなおおげさなものはありませんが、自分の見た、想った、感じたままの富士山を、そのまま描けばいいと思います。」と、素晴らしいメッセージをいただきました。3年生の美早香さんにとって、中学校生活も残り少なくなってきましたが、「卒業後も高校生・成人の部でずっと応募し続けていこうと思っています。」とコンクールに対する想いと意気込みを感じさせる言葉で締めくくってくれました。
中島 美早香 (なかじま みさか) さん ■プロフィール

中島 美早香 (なかじま みさか) さん
 1988年5月18日生まれ。富士宮市立西富士中学校3年生。バスケットボール部に所属。第1回富士山への手紙・絵コンクールから現在まで、同コンクールに休むことなく出品を続け、第7回のコンクールにて中学生部門最優秀賞受賞。