ふじあざみ 第35号(7)

大沢川源頭部調査工事へのフジアザミ移植2~3年生のフジアザミの苗を平成8年から標高2,150mの源頭部調査工事の土留工に移植し、活着・生育状況を追跡調査しています。その結果、ほぼ7割が厳しい環境に耐え生き残り、順調に生長しています。

フジアザミ種子吹付け試験工事
 平成9年度に調査工事の100m2の斜面にフジアザミの種子を約2万粒吹き付けました。4年が経過し、今年度には817株が生育しており、そのうち約10%に花が咲きました。
写真-5:移植したフジアザミの生長量を測定 (調査工事)
写真-5:移植したフジアザミの生長量を測定 (調査工事)▲
表-1 フジアザミの圃場整備状況とフジアザミの種子採取状況 2001.12月現在
年度 新規整備面積(m2 種子採取(粒)単位:万粒
岩樋右岸 岩樋左岸 大滝左岸 合 計 岩樋右岸 岩樋左岸 源頭部 その他 合 計
1993 (40) - - (40) - - - - -
1994 (200) - - (200) - - - - -
1997 - 900 - 900 - - - - -
1998 - - - - 5.0 - - - 5.0
1999 (470) - 200 (670) 7.0 6.0 5.0 - 18.0
2000 土石流発生 - - - - 7.0 - - 7.0
2001 750 - - 750 - 4.3 4.3 4.5 13.1
合 計 750 900 200 1850m2 12.0 17.3 9.3 4.5 43.1

表-2 源頭部調査工事に移植したフジアザミの残存状況 2001.9月現在
調査年月 1996年 移植 1997年 移植
440本(14本/m2 270本(5本/m2
残存数(n) 残存率(%) n/m2 残存数(n) 残存率(%) n/m2
1996年9月 361 82% 11.7 - - -
1997年9月 238 54% 7.7 258 96% 4.6
1998年9月 182 41% 5.9 232 86% 4.1
1999年9月 151 34% 4.9 214 79% 3.8
2000年9月 126 28% 3.9 200 74% 3.7
2001年9月 114 26% 3.6 195 72% 3.6

ミヤマハンノキの導入

ミヤマハンノキの特性
 フジアザミの寿命は10数年であるため、木本類の導入を検討しました。ミヤマハンノキは亜高山帯に生育する広葉樹で、富士山の森林限界から上部や急斜面に群生しています。
 ミヤマハンノキの特性はフジアザミ同様、裸地にいち早く侵入し、生長が早く、乾燥、貧栄養地に強く、樹形が地表をはうように生育し雪崩などの押し潰す力に対して柔軟に対応でき、根が土壌や礫を抱え込むように伸び、根粒菌と共生しているため空気中の窒素を固定して栄養分とすることができ、葉は窒素をたくさん含み「肥料木」といわれます。

ミヤマハンノキの生育状況調査

 ミヤマハンノキの生態には不明な点が数多く残っており、増沢教授のもと平成10年に調査区(コドラート)を定め群生調査を実施し、特に固体数と現存量(サンプル木の乾燥重量と幹の直径の関係をまとめ、それを基に幹径から生長量を調べる方法)により、経年的変化を調査しています。また、自然における種子の飛散状況を把握するため、シード・トラップ調査(地表にネットを固定し飛来する種子を捕まえる)をH12年度から開始しています。
調査工事斜面に生育するミヤマハンノキの実態調査 自然状態における種子の飛来を調査 シード(種子)・トラップ(わな)調査(調査工事現場)
▲調査工事斜面に生育するミヤマハンノキの実態調査 ▲自然状態における種子の飛来を調査 シード(種子)・トラップ(わな)調査(調査工事現場)
ミヤマハンノキの苗の移植
ミヤマハンノキ調査区の現存量の変化図  ミヤマハンノキの種子や苗木の入手は困難を伴い、増沢教授の研究室で養育された苗木をH8年度から調査工事上部に移植しています。しかし、大半が枯死したり、虫やカモシカの食害にあったりして、なかなか残存できませんでした。H13年度は、2年生苗木15株をポット鉢ごと移植し、80%が根づきました。また気候に順応させてから移植するため大滝圃場に105株を一時移植し、来年度調査工事へ移植する試みのため105株を大滝に移植しました。
 近い将来、フジアザミが地表面を押さえている間にミヤマハンノキが生長することを期待する同時移植の導入をめざし研究を進めていきます。

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