ふじあざみ 第35号(6)

今年度の植生を活用した取り組み中間報告

 富士山からの土砂災害を防止するために、崩壊や土石流に対して、コンクリートや鋼材など強固な素材を用いて対応しますが、工事の影響のあった部分に植生を復元し修復したり、地表面が安定した箇所に斜面の崩壊を防ぐ手段の一つとして植物の力を導入しようと試みています。そのため、
静岡大学理学部増沢武弘教授の指導のもとに、富士山に成育し森林が破壊された場所にいちはやく侵入し、成育するフジアザミの研究と調査を始め、木本類のミヤマハンノキの導入を平成8年から試みています。
■斜面対策工における植生工の位置付け
●斜面対策工施工後の地表面修復
●植生被覆による風化、凍土、雨滴、表面流の緩和

■富士山源頭部における厳しい自然条件
●表層土の移動が頻繁
●気温の日較差大、冬期の低温・凍土
●強風 ●乾燥、貧栄養の土壌
●積雪・雪崩による被害
■フジアザミの特性と選定理由
●富士山火山性荒原に群生する在来種
●多年生草本類 (7~10数年)
●貧栄養でも生育する
●日照を好み乾燥にも強い
●大型で葉質の厚いロゼット葉
●根の発育が速い ●2mにも及ぶ直根
●多量の種子(数百個)を付け風に舞う
●地下根に栄養を蓄え越冬

フジアザミの導入

フジアザミは、発芽してから4~5年後には大きな葉は1m以上にもなり、直根を伸ばし、雨滴によって表土の侵食を防ぎ、周辺の在来植生を呼び込むことができるようになります(写真-1、2)。
写真-1:2年生のフジアザミ 写真-2:1年生のフジアザミの根の状況
▲写真-1:2年生のフジアザミ ▲写真-2:1年生のフジアザミの根の状況

圃場の整備
 フジアザミの種子と苗木を確保するため、平成5年に岩樋左岸(標高900m)に苗畑圃場を設け、独自に栽培を開始し、播種⇒発芽⇒着花⇒種子採取⇒播種という育成サイクルが確立されています。順次拡大し、平成11年により気象が適した大滝(標高1,500m)に200m2を増設しました(写真-3)。
 一昨年の大土石流が流下した時に岩樋右岸の圃場は土石流が乗り上げ、その区分のフジアザミの苗が全滅しましたが、地盤をあげ巨石で囲んだ上で拡張しました(表-1)。

種 子 採 取
 種を播き必要に応じ水撒き除草を行い、生育にあわせ移植して適正な間隔で栽培し、着花後、受粉のすんだ花の一つ一つにかけて飛散するのを防ぎ、秋の終わり頃に収穫を行い、自然乾燥させた後に手作業で種むきをします(写真-4)。種子は平成11年に18万粒が収穫でき、一昨年は土石流被害で減少しましたが、今年は13万粒を収穫しました(表-1)。最近では、ノウサギによる食害が発生し、全体の40%が被害にあっています。
写真-4:種子採取のための袋かけ (岩樋圃場) 写真-3:フジアザミを計測する増沢教授 (大滝圃場)
▲写真-4:種子採取のための袋かけ (岩樋圃場) ▲写真-3:フジアザミを計測する増沢教授 (大滝圃場)
フジアザミ育成プロセス  フロー図

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