ふじあざみ 第34号(3)

土石流の動態観測や調査から土石流の謎が明らかに!!
平成12年11月21日に発生した土石流の流量と雨量の経時変化図
調査成果
●土石流発生降雨
 土石流発生降雨は前線性の豪雨であり、20日午前2時頃から降り始め、小康状態の後21日午前1時から3時頃まで集中して降っている。大滝で連続雨量260mm、最大1時間雨量46mm(2:00~3:00)で、10分間最大雨量17mm(3:00~3:10)が土石流を引き起こしたとみられます。
●土石流の発生位置と流下状況
 大沢崩れの8合目~9合目にあたる側方斜面から崩れ、大沢崩れの谷底及び崖錐斜面に堆積していた土砂が、最大10m洗掘され流出し、標高900mの岩樋終端まで一気に流下し、大沢扇状地に達した。大沢遊砂地・沈砂地で砂礫分は全て捕捉し、下流の被害は皆無でした。
●流下状況(VTR解析)
 大滝(標高1,500m)、岩樋(900m)、大沢川橋(500m)の監視カメラにおいてVTRに収録し、これから流速・水位を読み取り流出量を計測した(図-1)。VTR画像が鮮明で最後まで収録できた岩樋下流では、3:21に突然段波が襲い、最大水位5.5m、流速16m/s、ピーク流量は、Qsp=1,423m3/sである。また、峡谷域から大沢川流路工にいたる痕跡調査によるピーク流量の計算結果によれば、妥当と確認された。遊砂地・沈砂地を経て、5.5km下流の大沢川流路工大沢橋におけるピーク流量は202m3/sであった。
●水系一貫した土砂の移動状況
 計測上の精度や流下過程における土砂が砕けて細くなる現象もあり、全体的な把握が非常に難しいのですが、その一端が初めて明らかになりつつあります。昨年の土石流では、源頭部で25.8万立方メートル流出した土砂は、岩樋に至るまでに15.8万立方メートルを侵食し、遊砂地で大きな粒径の土砂が捕捉され、下流に5.7万立方メートルが海域に流出したと推定されます。また、土石流の中に含まれる土砂の粒径構成の変化についても、データが得られました。
土石流調査・観測の手法
●砂防施設の効果
 遊砂地及び沈砂地で約28万立方メートルの土砂を堆積させ、ピーク流量を1/7に低減させた効果はきわめて大きかった。さらに砂防施設が無い場合の効果をシミュレーションで検討しました。土石流の氾濫計算式において、条件をH12年11月及びH9年6月の土石流の詳細な実測データで、最も適合するモデルを構築し、施設が建設される以前の地形データを用いて被害状況を推定しました。
 その結果、大沢川扇状地で氾濫し直接土石流が集落を襲った場合、約157haの区域で約3.6億円の被害額が生じたと推定されます。また、扇状地で局所先掘により生じた自然河道に一部の土砂が潤井川に流れ込んだ場合、潤井川本川の河床をあげ、洪水被害が約43haで約84.2億円にのぼると算出されます。
 大沢川の砂防計画は、100年に1度の大出水時に、流出する土砂量は150万立方メートルとされ、今回流入した土石流の1/7にあたりますが、非常に大きな効果があったと考えられます。

今後の砂防調査の展開
図-2 大沢川遊砂地における
  土石流の堆積状況平面図
大沢川遊砂地における土石流の堆積状況平面図
●砂防施設の効果
 土石流発生時の現地観測は山奥で夜間等に短時間で突発するため困難が多く、H12年11月土石流も現在の観測・計測手法では精度が充分でなく、今後現地観測手法を改良、充実させ、より正確な土砂移動の量的・質的なデータの蓄積をはかります。
 さらに、多角的・総合的に解析し、土石流の発生の予知や、より効果的な砂防対策の方策について検討します。

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