ふじあざみ 第30号(5)

タイトル 世界に誇るFUJI-YAMAを新世紀へ伝えるために

タイトル 6人の論客が熱い意見を語る!!

増沢 武弘氏の顔写真
静岡大学理学部
生物学科教授
理学博士
増沢 武弘
地球温暖化と山頂の永久凍土とコケ

 温暖化の証拠を具体的、科学的に証明するのは過去のデータをしっかり把握しなければならず、たいへん難しいことと思います。富士山では、温暖化の影響が山頂のコケにあらわれていると言われています。コケの被覆が増えたことがその理由です。山頂の岩場の永久凍土が解けて水分が供給されコケを維持しているのではないかと思われます。
 日本列島には富士山と北海道大雪山しかないと言われている永久凍土の分布を、地中温度を測定することにより、その位 置を確認しました。その結果から約30年前と比べて、標高にしてほぼ100くらい永久凍土の下限が上昇していることがわかりました。当時の大学院生だった藤井さん(現在、在、極地研教授)が測定した記録があったからこそわかったことです。環境の変動を把握するためには、観測・調査し記録することが重要なのです。
 富士山麓の森林の荒廃はずいぶん前から指摘されてきましたが、その一番の理由は、人工林の手入れ不足でした。富士山本来の天然林の復元に伴う諸々の問題に対し、復元の意義、目標とする植生、維持管理および実施体制に対する責任・役割の分担、苗木の調達など、さまざまなことを具体的に抽出・整理し、構築したのが「富士山100年プロジェクト3776構想」です。富士山には解明されていないことがまだたくさんあり、現在の状況をデータで正しく残すことが非常に重要です。

薄木 三生氏の顔写真
環境省自然環境局
南関東地区
自然保護事務所長
薄木 三生
富士山の利用実態と
自然体験の「場」の提供

 富士山には年間25万~30万もの人々が登っており、7月~8月に集中し、目的、年齢層など特殊な状態にあります。自然保護に関する富士山の最大の問題はゴミと屎尿問題の2つで、この発生源はいずれも人です。ただアンケート調査の結果 を見ると、トイレの有料化の意識が高まってきていますが、支払ってもいい金額に対する集金額は1/3です。新環境基本計画に則り、富士山で山岳トイレを自然エネルギー導入に関わる試験施設ができるかもしれません。
 若い人の自然体験活動や、自然混交林復元の植林活動が重要なのですが、地元の民間ボランティアや子供たちが参加できる「場」を提供すべく、林野庁をはじめ、静岡県の富士山ネットワーク、山梨県のボランティアセンターが設置されています。さらに、今年7月全国にさきがけ富士宮市田貫湖に環境省の「ふれあい自然塾」が開設され、自然保護団体のサポートをいただいております。

岡野 眞久の顔写真
国土交通省
中部地方整備局長
岡野 眞久
安全で緑豊かな山麓空間に

 大沢崩れから生じる土石流に対して、当面の対策として大沢扇状地の安定化を、30年の直轄砂防事業により約100haで150万m3の土石流を捕捉する遊砂地の整備がすすみ、20万m3を超える土石流もたびたび発生しましたが、安全に堆砂させることができるようになりました。
 長期的な課題として大沢崩れ拡大防止のために、昭和57年から調査工事に着手し、この結果 により今後の対応を検討し決める予定です。また、災害を未然に防ぐため、土石流の流出を検知し伝達する土石流の集中監視体制が整備されています。
 従前から植生を積極的に導入してきましたが、小中学校の生徒とリサイクルポットを用い、環境教育も含め砂防樹林帯造成を進めてまいります。また、富士山を囲むよう展開する市街地を、土砂災害からやわらかく守る樹林帯構想を研究しています。
 21世紀においては安全で豊かさを実感できるまちづくりが望まれますが、安全面 では、噴火対策を含めた火山砂防対策の策定、特にハザードマップの作成が重要です。そのために行政が持つ防災情報の日頃からの住民への提供が必要になります。検討中の砂防樹林帯は、日常的には自然の豊かさを楽しむ場として利用できます。




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