富士山の雲と天候の関係
 富士山は単独峰であるため、湿気をふくんだ風が山に直接ぶつかり、高度を増すにつれて、いろいろな形をした雲があらわれます。富士山にかかる雲は古来より観天望気のよい指標となってきました。観天望気(かんてんぼうき)とは、雲や風など大気の状態を観測し、天気を予測することです。富士山の雲は非常に顕著な現象を示すため、麓の住民は富士山の雲を見て天気を予測してきたのです。富士山に発生する雲の中で代表的なものが笠雲とつるし雲です。「富士山が笠をかぶれば近いうちに雨」「ひとつ笠は雨、二重笠は風雨」など、麓には雲に関係することわざも多く残されています。実際、笠雲がかかったあとの天気は、24時間後までに雨となる確率を季節別にみると春秋が約70%、夏は約75%、冬も約70%と、統計からみてもかなり信頼性が高いと言えます。さらに、笠雲とつるし雲が同時に現れると雨の確率は約80〜85%もの的中率になると言われています。
ひとつ笠 はなれ笠
ひとつ笠 はなれ笠
にかい笠 つばさ(つるし雲)
にかい笠 つばさ(つるし笠)
 
 笠雲は、高層雲が次第に厚くなって出来たもので、山体に沿って雲のフチがはっきりしてくるときれいな笠の形になります。山頂付近に静止しているように見える笠雲ですが、実はこの雲が発生している時の富士山上層の風は強く、雲も常に新陳代謝を繰り返しています。風上側の斜面で雲が発生し、風下側の斜面で雲の粒が消えていく現象を絶え間なく繰り返しているため、見た目には変化がないように見えるのです。笠雲は低気圧や前線が接近し、日本列島に暖かい湿った空気が入ってくると発生するため天気が崩れるのです。悪天が通過したあとに現れることもまれにあり、この場合は笠雲は消失していき、次第に晴天が広がります。
 つるし雲は、山頂を通り過ぎた上昇気流がロール状に回転して富士山の風下に雲を作ったものです。あたかも凧が天高く上がったように同じ場所に浮かんでいる雲で、雲の形状は円筒状、楕円状、つばさ状などさまざまです。きれいな楕円状の雲などは、大きなUFOが浮かんでいるようにも見えます。このつるし雲が観測されるのは月平均1回程度、しかも発生する時間も数分から数秒と短いため、この雲が見られたときには、ぜひ観察してみてください。
 笠雲にはさまざまな形状があり、それぞれに名前も付けられています。富士山に笠がかかっていたら、なんという雲なのか、観察してみてはいかがでしょうか。

※参考/富士山測候所御殿場基地事務所 資料
れんず笠・われ笠・えんとう笠・はふ笠・ひさし笠・おひき笠
笠雲には上記の他にも「まえかけ笠」「なみ笠」「うず笠」「ふきだし笠」「よこすじ笠」「すえひろ笠」「みだれ笠」「かいまき笠」など、多種多様なものがあります。
※写真・図提供/河口湖測候所