富士山の基礎知識
富士山の湧水のメカニズムを探る vol.1
 富士山の周辺に点在する湧水は、古くから人々の生活を潤してきました。そんな富士山の湧水は、どのように湧き出すのか、そのメカニズムをひも解いて見ましょう。

■富士山の雨・雪の行方
 富士山には谷はありますが、水が常に流れているような川(恒常河川)はありません。では、富士山に降った雨や雪融け水はいったいどこへいくのでしょうか?それについては、これまで二つの考え方がありました。一つは富士山に降った雨や雪融け水はすべて地下へしみ込み、富士山の底にある盆地に溜まり、やがてそれが溢れて山麓に湧き出すという考え(図1)、もう一つは、溶岩はスポンジのように孔だらけなので、水は地下へしみ込みますが、富士山の下に隠されている古富士火山は主に泥流からできているので水を透さず、その表面を“地下川”として麓まで流れ下るという考え方です(図2)。 富士山の地下水についての模式図
図−3富士山とその周辺の主な湧水
 富士山の周囲には数多くの自然湧水があります(図3)。南東側の三島楽寿園小浜池や柿田川、南側の富士吉原湧水群、南西側の富士宮浅間大社湧玉池、白糸ノ滝、猪之頭湧水、北側の富士五湖と忍野八海などは規模も大きく有名です。富士五湖は湖底の湧水が知られていますが、これは富士山の溶岩が御坂山地の麓まで流れ、やがて末端から湧水が湧き出して山地との間に湛水したと思われます。小浜池は、近くの菰池、水泉園などと共に三島湧泉群と呼ばれ、古くは日量20万・の湧水に恵まれていました。ところが、小浜池は昭和36年頃から湧水が減少しはじめ、翌年3月に初めて枯渇し、近年ではたびたび枯渇するようになってしまいました。

■平成10年の富士山の雪融けと湧水
 富士山頂の降雨・降雪量は観測されていませんが、積雪の深さは毎日観測されています。ところで、平成10年は例年よりも1ヶ月早く富士山の雪融けが始まりました。山頂の積雪は4月10日にその冬の最高228cmを記録しましたが、4月14日から融け始め、早々と融けて5月29日には0になってしまいました(図4)。そして、雪融けが始まると同時に一斉に増水したのが山麓の湧水なのです。小浜池では−223cmだった水位が4月15日から急に上昇しはじめ、6月27日には143cmの高水位を7年ぶりに記録しました。では、この大量の湧水はどのようにしてきたのでしょうか?しかもこの時、柿田川も、湧玉池も、富士五湖も、雪融けと共に急増水したのです。

■溶岩の構造と地下水
 富士山の溶岩は玄武岩質の溶岩なので粘性が低く、とても流れやすい性質を持っています。特に、約1万年前の噴火の時には山頂付近から大規模な溶岩流を四方八方に流しましたが、この時、南東に流れた溶岩は“三島溶岩”と呼ばれ山頂から35kmもある三島や柿田川まで流れています。噴火した時は1200℃近くの高温なので、溶岩流の表面と下底は急冷され、ガサガサに破砕されますが、中心部はゆっくり冷えて緻密に固まるので水も透しません。このような溶岩の層が7層位重なって厚さ30mの三島溶岩ができているのです。地表からしみ込んだ水はこのような溶岩層と溶岩層の間に入り込み、高さによる上からの水圧で押し出されるようにして末端から湧き出すと考えてはどうでしょうか(図5)。裾野では溶岩はひろがり傾斜も緩いので、しみ込んだ水は溶岩の間に入りにくいのですが、より高いところでは、溶岩はより傾き、薄く狭くなって破砕部分もふえるので、しみ込んだ水は溶岩層の間に入りやすくなると考えられます。(土 隆一)
図−4富士山の雪解けと湧水量の関係
図−5地下水の流れ