I地点:遭遇した土石流

土石流を見た後、家に入って食事をしていると、電柱からの引き込み線が大きくゆれていることに家内が気づいて不安がりました。家が山崩れでゆれていると思ったようです。私に学校へ避難しようと言いだしました。私が、この家は尾根を削って建ててあるし、岩盤は硬い花崗岩だから大丈夫だと言うと、家内が下の家は危なくないかと言うので、私は下の家の先生たちと避難することを決意しました。

3才の長男を背負って、生徒と下の家の家族と対岸の学校へ避難しました。避難する途中、寺沢川の濁流は、土橋を今にも押し流そうとしていました。皆は怖がりましたが、水を見ずに一気に走れと号令をかけて皆を走らせました。ようやく学校に辿り着き寺沢川を見ると、さっき通った土橋は流されて跡形もなくなっていました。一同は、雨に濡れた寒さと怖さで震えていました。

そのとき、私は土石流が発生しているのを目撃しました(写真-1、写真-2参照)。写真-2の土石流は、道路際の家をのみ込んで、寺沢川に突入しました。このとき、家が破壊する音が何もしなかったことに気がつきました。まさにそれは、濁流の中での石と石との摩擦音、そして激しい雨音に消されていたからでした。

学校ではあちらこちらの家から避難して来た先生たちの家族でごったがえしていました。体育で使用するために購入してあった柔道着のあることを思い出し、着替えのない家族のために、これを皆に着てもらうことにしました。体育館にやはり柔道の畳を敷いて、なにがしかの宿直の布団を置いて、子供や奥さんたちの休む場所を整えました。

奥さんたちに、夕食の用意を頼み、校長、教頭と私の3人で、今後の行動について、P地点で話をしました。このときは、午後6時であったと思います。その時、私は足下にそよ風らしきものが吹いてくるのを感じました。次の瞬間、土石流(写真-3)がグランドのバックネットを突き破りながら、水の溜まった平らなグランドを滑るように、こちらに向かってくるのに気がつきました。校長、教頭もびっくりして、素早く逃げました。土石流は校舎の手前で静かに停止しました。土石流の運んできた土塊を見ると、なんと森林がグランドに移動してきたかのごときありさまでした。土塊には倒れている樹木もありましたが、ほとんどの樹木は立っていました。

道路を横切ってきた土石流
写真-1 道路を横切ってきた土石流
旧生田中学校北側寺沢側沿いの土石流で破壊された民家
写真-2 旧生田中学校北側寺沢側沿いの土石流で破壊された民家

土石流が流出した後の旧生田中学校グランド
写真-3 土石流が流出した後の旧生田中学校グランド