<20>大平峠(飯田市・南木曽町境)  旅人が通った険しい道 伊那谷と木曽を結ぶ大平街道の中間にあり、古くから多くの旅人が行き交った。標高一三五八メートル。天井のコンクリートが露出した古いトンネルを抜けると、木曽の山々が広がる。近くには、明治時代に建てられた道標と石仏が並ぶ。 峠から飯田方向に戻ると、かつては宿場として栄えながら、一九七〇(昭和四十五年)に集団移住で無人となった大平宿に入る。 江戸時代に開発された大平宿は明治から昭和初期にかけて、物資輸送の拠点としてにぎわった。飯田下伊那の子どもたちは大平峠を歩いて越え、修学旅行に出たという。 しかし、鉄道や道路の整備が進むにつれ、大平宿は衰退。高度成長期後の過疎化を受け、二百年を越える歴史に終止符を打った。残された建物は地元有志の手で守られ、山村生活が体験できる場として利用されている。 大平街道沿いの山は、もうすぐ紅葉に染まる。だれもいない大平峠に立って耳をすませると、険しい道を歩く旅人の足音がどこか遠くで聞こえるきがした。(中山道雄)