<26>天竜橋(天龍村)  秘境駅へと続くつり橋 天竜川に架かる歩行者専用のつり橋。対岸には、秘境駅として有名なJR飯田線の為栗駅がある。橋は全長約百二十メートル、幅約二メートル。ゆったりと流れる川を眺めながら歩くと、足元が揺れた。 駅は無人。プラットホームから、線路を挟んだ山の斜面に民家が二戸だけ見える。前後はトンネル、前は川。ほかに何もない。駅は一九三六(昭和十一)年に開業。当時は川岸に集落があったが、ダム建設のため水没した。天竜橋は、そんな歴史を見つめてきた。 為栗駅は県道の起点となっているため、車が入れない橋もれっきとした県道の一部だ。駅を訪れた鉄道ファンらは橋まで足を伸ばし、秘境の雰囲気を楽しんでいる。 信州から遠州に向かう天竜川は、この辺りで上流を振り返るように大きく蛇行する。舟運が盛んだった時代。船頭たちはその姿を「信濃恋し」と呼んだ。川に小石(恋し)を投げ込むと、縁結びの願いがかなうとの言い伝えもあるという。(中山道雄)