第1部 @大橋 伊那市  東西の暮らしをつなぐ 市街地の真ん中を天竜川が流れる伊那市。橋は東西の街を結び、暮らしをつなぐ大事な役目を担っている。坂下区と中央区をつなぐ大橋(伊那大橋)は1885年に木橋として架設され、大正時代に架け替えられた。コンクリートの永久橋に代替わりしたのは1933年のことだ。 架橋から今年で80年。子どもの頃、まだ新しかったこの橋を渡って伊那尋常高等小学校の高等科に通っていたという中央区の春日伯一さん(82)は「あの頃はまだ運送が馬で、自動車はほとんど見ることがなかった」と懐かしむ。車社会が到来すると、大橋の交通量も増えた。67年には歩行者の専用橋「大橋歩道橋」ができ、機能と安全を重視した国道橋に整備されている。 通勤の車で混雑する平日の朝、「入舟」交差点を先頭に信号待ちの車が橋上で列をつくった。やがて反対車線も車で埋まり、自転車の高校生が渋滞の車列を追い越していった。  (文・倉田高志、絵・片桐美登) 国土交通省天竜川上流河川事務所(駒ヶ根市)の「人と暮らしの伊那谷遺産プロジェクト」で選定された伊那谷遺産を訪ね、片桐美登さんの水彩画で紹介します。 片桐さんは1955年、下伊那郡大鹿村生まれ。86年に駒ヶ根市に移住し、現在は市社会福祉協議会事務局次長。趣味は水彩画で、公民館などの水彩画教室で講師を務めています。 連載では、選定された遺産の今を見詰め、過去に伊那谷で行われた土木事業や暮らしを振り返ります。片桐さんは「地元の文化や歴史を現場で知ることは楽しみ。造った人の気持ちや、それを使ってきた地域の人たちの思いが感じられるように描きたい」と話しています。