第2部 E惣兵衛堤防 下伊那郡高森町 名工が築いた強固な石堤  下伊那郡高森町の天竜川右岸。河川敷の草むらに、大きな石が積まれているのが見えた。すぐそばの案内看板が、1993年の親水護岸工事で河床から掘り出されたものだと語っていた。かつて大川除(おおかわよけ)と呼んだ堤防の骨格になった巨石だった。  江戸時代、飯田藩はたびたび氾濫する天竜川に堤防を築いて水田開発し、米の増産を図って藩財政を安定させようとしていた。当時の下市田村にも堤防を築こうと計画し、主任技師に石工の中村惣兵衛を起用。1750年から工事に取り掛かったのだった。  完成は2年後。巨石を乱れ積みした延長約150メートル、高さ約4メートルの石堤だった。1961年の三六災害で決壊するまで200年以上にわたって農地を守った強固な石堤は、名工の功績を讃え「惣兵衛川除」とも呼ばれていた。地元に伝え残る話として、「堤防で激流がはね返り、直撃する下流対岸の村々から恨まれるほどだった」と聞いた。  (文・倉田高志、絵・片桐美登)