第1部 A伊那街道 辰野町〜根羽村  中馬がつないだ運送の道 飯島町高遠原の坂と呼ばれる坂がある。古い石積みが街道をくっきりと描き出し、脇を流れる高遠井が石垣に水音を弾ませている。東側の石垣の上には馬頭観音。上屋がかけられた石塔からは、農耕や運送で働いた馬を大事にした人たちの思いが伝わってくる。 伊那街道では中馬と呼ばれる馬を使った運送が発達していた。宿場問屋の宿馬で次の宿場まで荷物を送る仕組みで、宿と宿の間には、中馬のための馬宿のための馬宿が設けられた。飯島宿(松川町)の間の高遠原もその一つで、街道の両側に6件の馬宿が軒を並べていた。 米屋の坂の馬頭観音は文化14年(1817)の建立で、風化も進んでいる。刻まれた文字も薄らいではきたが、「馬を大切にした先祖からずっと守ってきたものだからね」とは米屋の当主、片桐雍夫(ちかお)さん(72)。今も正月にはしめ縄を飾り、お供えをしているという。  (文・倉田高志、絵・片桐美登)