第1部 J霞堤 伊那市  “霞たなびく”自衛堤防 堤防の切れ目はジョギングやサイクリングにはちょうどいいぐらいのスロープ。霞堤はそこから大きくカーブを描いて上流側に延びていた。 堤防が折れ重なり、霞がたなびくように見えるところから霞堤と呼ぶのだという。堤防に開口部を設け、下流の堤防の上流側を耕作地や集落がある堤内側に延ばして重複させた不連続堤防で、伊那市の三峰川には右岸に8カ所、左岸に3カ所ある。   「この辺りじゃ、自衛堤防と呼んでいる。昔、上川手と下川手が川手村だった頃、自分たちの家や田畑を守るために金を出し合って、人足になって築いた堤防だからだ」と話すのは同市美篶上川手の矢野源嗣さん(82)。 消防団の分団長を務めていたこともあり、三六災害では霞堤が機能したことを良く覚えている。三峰川の上流側を指さし、「あそこの先で堤防が切れたが、その下の霞堤で水は本流に戻った。霞堤のおかげだった」と語った。  (文・倉田高志、絵・片桐美登)