<16>霞堤(伊那市美篶など)  洪水調節豊かな土守る 洪水が多発した三峰川下流で見られる不連続の弓状の堤防。堤防の一部を切り、下流側の堤防を田や集落のある上流方向にカーブを描くようにして造った。三峰川の右岸で八ヵ所、左岸で三ヵ所現存する。 集落毎に霞堤はあり、主に明治時代に造られた。霞堤は堤防の不連続部分から洪水の濁流を氾濫源に引き込み、自然に水が引くのを待つ仕組みを特徴とする。堤防の本格的な決壊を防ぎ、洪水を調節した。霞堤の上流で堤防が決壊した際には速やかに濁流を本流に戻し、被害を拡大させない役割もあった。 洪水時の氾濫源を「割地」と呼び、集落の住民が持ち回りで管理した。伊那市美篶の農業矢島信之さん(六九)は「住民が協力し合い、『わが村は、わが堤防で守る』という自治の精神が読み取れる」と話す。 霞堤は洪水の水を下流に吐き出す代わりに、上流の豊かな土を流域の水田にとどめ、蓄積する役目も担った。堤防沿いの道を車で行くと、広い水田が広がる。先人たちの協調性と自己犠牲の精神が、実りの秋を豊かなものにしてきたのだろう。(札木良)