<38>出砂原の大石(高森町下市田)  土石流災害の記憶残す JR飯田線市田駅前の住宅地。民家に囲まれた目立たない空き地に、高さ三メートルもある大石がある。雪が積もった石の上には二体の地蔵。寒さに耐えるように寄り添い、じっと遠くを見つめていた。 約三百年前の一七一五(正徳五)年、天竜川流域で大規模な豪雨災害「未(ひつじ)の満水」が起き、多くの犠牲者が出た。大石はこの時、近くを流れる大島川の土石流で運ばれてきたという。 その後、石の近くを通ると満水で死んだ赤ん坊の泣き声が聞こえる怪異が続いたが、地蔵を建てたら、ぴたりとやんだとされる。このため、地蔵は「夜泣き地蔵」と呼ばれる。同じような悲しい話は、この欄で紹介した飯田市上郷別府の「夜泣き石」にもある。 「出砂原の大石」という名前は地名に由来し、豪雨の度に大島川からの土砂流出が絶えなかったことを物語る。人々は災害に苦しみながら、犠牲者の冥福を祈った。大石と地蔵は、そんな地域の歴史を今に伝える。(中山道雄)