<25>夜泣き石(飯田市上郷別府)  水害の悲しい物語伝承 商店や住宅が立ち並ぶ市街地の一角。通りに面した駐車場の奥に、全長七メートル、高さ二メートルほどの巨石がある。石の上には一体の地蔵。地元では「夜泣き石」と呼ばれ、江戸時代の水害にまつわる悲しい物語を伝える。 一七一五(正徳五)年夏、未(ひつじ)の満水と呼ばれる豪雨災害が伊那谷を襲い、天竜川流域で大規模な洪水が起きた。 この際、野底川上流の山崩れで川がせき止められ、川幅の数十倍に広がった激流による土石流が発生。逃げ遅れた子どもが、流されてきた巨石の下敷きになって死んだ。その後、石の下から子どもの泣き声が聞こえるようになったため、地元の人たちが地蔵をまつって供養したという。 地蔵は毛糸の帽子と麦わら帽をかぶり、よだれかけを着けている。石の上には、だれかがペットボトルのお茶を供えていた。 これだけの巨石が運ばれたとすると、土石流は想像を絶する勢いだったに違いない。今も守られ続けている地蔵の姿に、災害に負けなかった人たちの強さと優しさを感じた。(中山道雄)