第1部 C北川集落跡 下伊那郡大鹿村  土石流で埋もれた集落 国道152号を伊那市長谷から分杭峠を越えて下伊那郡大鹿村に入る。鹿塩川に沿って下る途中、右手に門のような構造物が見えた。上部に欄干がある。確かにここに道があり、橋があったのだ。 1961(昭和36)年の豪雨による土石流で、鹿塩小学校北川分校は破壊され、北川集落39戸が土砂に埋まった。近くの山では地すべりが起こり、鹿塩川をせき止めたという。北川集落にあったこの橋は、両側の取り付け部分が流され、コンクリート橋の一部だけが残った。 木々の葉が生い茂る季節だったら見えなくなりそうな場所にある。逆方向に車を走らせていたら気が付かなかったかもしれない。 青緑色の岩盤が露出する河床を、透き通った水が、何もなかったかのように流れていく。川の両岸には道の形跡があり、左岸の林には幅2メートルほどの空間がぽっかりと空いている。橋上に根をはる数本の松が年月を物語っていた。  (文・倉田高志、絵・片桐美登)