第2部 A三界萬霊塔と六地蔵 下伊那郡高森町  未(ひつじ)の満水の被害を伝える 下伊那郡高森町のJR市田駅西方にある明照(めいしょう)寺の前に、「出砂原(ださら)六地蔵尊」は並んでいた。安産と子育ての祈願寺にあり、「ださらの子守り六地蔵さん」として地域の人たちに親しまれている。寺の前の道は地蔵通り。通りかかった女性が六地蔵の前で立ち止まり、手を合わせていった。 出砂原は、正徳未(ひつじ)満水といわれる1715年の大水害で濁流にのまれた地域で、六地蔵も押し流された。民衆の深い地蔵信仰によって再建されたのは1841年だった。その後、廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)で一部が破壊される災難もあったらしいが、修復され、今、地蔵通りを行く人たちに優しくほほ笑み掛けている。 六地蔵のすぐ隣には三界萬霊塔が建っていた。石塔の高さは約2メートル。未満水の大水で亡くなった人々の冥福を祈るために建立された。未満水では山崩れによって、巨石が押し流されてきたという。被害の大きさは供養塔の大きさからも伝わってくる。 (文・倉田高志、絵・片桐美登)