<5>六地蔵と三界萬霊塔(高森町下市田)  激流鎮めるかのまなざし 一七一五(正徳五)年六月、伊那谷で「未の満水」と呼ばれる洪水があった。飯田市を流れる野底川から流出した大量の土砂が天竜川をせき止め、一帯が湖のようになったと記録されている。 高森町下市田には、満水の犠牲者を弔ったと伝えられる「三界萬霊塔」と、満水で流された後に再建された菩薩像の「六地蔵」が隣り合って並んでいる。 三界とは、欲界(欲の世界)、色界(物質の世界)、無色界(精神だけの世界)の三つを指す。三界萬霊塔は、この世の生き物すべての霊を塔に宿らせているといわれる。 同町の国道153号・出砂原交差点には、六地蔵を紹介する案内看板があり、観光スポットになっている。 六地蔵の前に立つと、柔和な表情に心が落ち着く。三界萬霊塔とともに天竜川の方角を向き、今も穏やかなまなざしで激流を鎮めているかのようだ。(札木良)