天竜川上流ニュースレター 2011年5号
 7月の「天竜川体験講座」開催報告

 ■ふちっこ環境隊、「深見の池」などの水質調査を実施(大下条小学校3年生)
 ■砂防施設の見学と、川の生きもの・自然観察【飯田市上村・上村川】
 ■魚が移動しやすい砂防施設と、川の生きもの観察【松川町・片桐松川】

■ふちっこ環境隊、「深見の池」などの水質調査を実施(大下条小学校3年生)

深見の池は下伊那郡阿南町立大下条小学校のすぐ近くにあり、「ふちっこ」と呼ばれる大下条小学校の生徒のみんながいろいろな環境整備活動をする身近な池です。 また、数少ない天然湖として貴重なほか、定期的に大学の研究チームが調査に訪れるめずらしい環境を持つ池でもあります。
 7月14日(木)、大下条小学校3年生の生徒の皆さんと水質やそれに伴う生態環境の違いを対比するため、「深見の池」と、「学校の近くを流れる川」の2地点で水質調査を行いました。 この調査は、身近な環境の学習として学校からの申し出を当事務所がお受けしたもので、「CODパックテスト(薬品を使っての化学的な調査)」と、 水生生物をつかまえて水質を判断する「水生生物調査」の2種類の調査を行いました。

深見の池 学校近くの川
 
 水生生物、パックテストの両方の調査から深見の池は「汚れた水」、学校近くの川は「きれいな水」と判定されました。 今回のように両方の調査を行うと、ほぼ同様の調査結果を得られることがわかります。(水生生物調査の水質判定方法は、 天竜川の水をしらべてみよう『水生生物調査パンフレット』を参照ください)
 水生生物調査の良いところは、特殊な薬品や機材がなくても楽しみながら水質が判定できること。 場所を変えて対比してみると水質や環境に応じて全く違う生きものが棲んでいることもわかります。 川の中にこんなにたくさんの生きものがいるのかという驚きと発見が、生き物や環境を大切に思う気持ちにつながれば幸いです。


■砂防施設の見学と、川の生きもの・自然観察【飯田市上村・上村川】

 7月の天竜川体験講座のテーマは「砂防」。7月17日(日)、46名の参加者を迎え、飯田市上村にて砂防事業の説明にあわせ、 渓流域の生きものや流域の自然観察を行いました。

砂防施設の説明と見学
 伊那谷を囲む天竜川流域の山々はもろい地質と、急峻な地形による急流河川が特徴です。50年前、伊那谷を襲った未曾有の災害、 「三六災害」で発生した土砂崩落は、伊那谷各地で約10,000箇所もありました。当事務所ではこうした土砂崩落などから流域の生活を守るため砂防事業を推進しています。
 「砂防えん堤」の働きとして、
 ・洪水時に上流から流れる土砂を食い止めた後、えん堤に貯まった土砂を少しずつ下流に流す「土砂の流れをコントロールする働き」
 ・えん堤に貯まった土砂によってその上流の谷が緩やかな斜面になることで「流れる土砂の勢いを弱める働き」
など、砂防えん堤に土砂が貯まった後の働きについても理解を深めました。
 
川の生きもの観察
 楽しく学ぶのが天竜川体験講座のモットー。ひととおり砂防施設を見学した後は、子供達が大好きな川の生きもの観察です。
 渓流の女王「アマゴ」のつかみ取りでは、魚の運動能力の高さや、魚がどんな場所に身を潜めているかを体感しました。 川の生き物観察では、カゲロウ、カワゲラなど、きれいな川に生息する生きものがたくさん捕れ、 「上村川水族館」と名付けてたくさん用意したトレイは川虫たちでいっぱいになり大盛況でした。

流域の自然観察
 
 この日最後の講座は、シカの食害による流域の異変について講師の堤先生よりお話しをいただきました。 長年、天竜川流域の植生調査に携わる先生によると10年ほど前からスズタケ(ササの一種)の枯れ木などがかなり目立ち、 低木や草も少なくなり、流域の多様な植生が失われつつあるとのことです。よく観ると獣に食べられた痕跡があるようです。
 そう言われて山の中を観察してみると、木や下草のない表土がむき出しの場所が目に入ります。 こうした場所では雨が土に強くあたり土を流してしまうため土砂くずれなどの一因となってしまいます。 林業の担い手不足による山の荒廃はよく耳にしますが、動物による影響も深刻になっていることを教わりました。

■魚が移動しやすい砂防施設と、川の生きもの観察【松川町・片桐松川】

 7月23日(土)、19名の参加者を迎え、上伊那郡松川町・片桐松川に整備した砂防施設(床固工群)の見学と川の生き物観察を行いました。床固工は、出水時に川底や川岸が削られるのを防ぎ、浸食や氾濫を防止する役割がありますが、 「常水路(じょうすいろ)」と命名されたこの床固工は、魚の遡上などに極力配慮した構造になっています。 人々の生活の安全と魚や動物の生活を両立させるため、発注者や受注者などで様々な知恵を出し合い造られたもので、 川遊びをする皆様の親水性にも配慮しています。
 今回の天竜川体験講座では、階段状に造られた「常水路」の説明と、実際に魚が昇っているかなどの観察を併せて行いました。

魚は自由に泳いでいるかな?
 片桐松川に棲む主な魚は、イワナ、アマゴ、ウグイ、カジカ、オイカワ、ヨシノボリなどです。常水路に魚はいるでしょうか。 箱メガネを使いみんなで観察してみました。期待を込めて覗いてみると、いました。 アマゴは逃げるように下ったり昇ったり活発に泳いでいます。カワヨシノボリ、カジカもいます。
 渓流域まで遠征した甲斐があり、天竜川周辺ではあまり見ることのないカジカやカジカガエルを捕まえて観察できたことはこの日の収穫でもありました。 欲を言えばカジカガエルの美声を聞かせてあげたかったのですが・・・

 いろいろな場所で生き物を調べるとその生き物に必要な環境があることがわかります。当事務所では天竜川流域の防災や自然について、 様々な環境下で講座を開催していますので、お気軽にお問い合わせください。

企画・編集・発行 国土交通省 天竜川上流河川事務所 調査課
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