大谷崩

大谷崩の概要

安倍川の奥には大谷崩という大きな山崩れがあります。大谷崩の面積は約1.8km高度差800mであり、これまでに崩れた土砂量は約1億2000万m3と推定されています。

古文書の記載内容から現在見られるような大崩壊地となった年代は宝永4年(1707年)10月の宝永地震(M8.4)と言われています。この地震により大谷崩が発生し、大量の土砂が5km下流の赤水の滝迄一気に流下し、三河内川をせき止め新田地先に大池をつくりました。その後の洪水でも土砂を押出して、現在の景観となったと思われます。

また、大谷崩は「日本三大崩れ」のひとつになっています。

日本三大崩れ

  • 大谷崩(静岡県)
  • 稗田山崩(長野県)
  • 立山鳶山崩(富山県)

大谷崩

大谷崩の地形・地質

大谷崩の地形・地質についてご説明します。

安倍川上流周辺の地形

安倍川上流は南アルプス赤石山脈の山々に囲まれ標高約700m~2,000mの間に位置しています。この上流域に存在する山々の高いところと低いところの差は500m~600mですが、大谷崩では他の地域と比べ大きく、700m~1000mと大きくなっています。また、大谷崩の傾斜は全般的に急で谷はV字谷になっており、現在も侵食が続いています。

大谷崩周辺の地形

大谷崩の最も高い地点は、標高約2,000mの大谷嶺(おおやれい)で、崩壊部分の最も低い地点と比べるとその高さの差は約800mにもなります。これは大谷崩周辺に崩壊斜面が多いということを示しています。
その他に大谷崩の地形は次のような特徴があります。

  • 大谷崩は扇状の地形となっており、中央部は「扇の要」と呼ばれています。
  • 大谷崩の先端は、北側の屋根筋ほどいわゆる“やせ屋根”になっています。

大谷崩の地形形成

大谷崩の地形をつくる土砂の移動は次のような流れで起こります。

  1. 崩壊と崖錐(がいすい)の形成
    山の斜面の岩が崩壊し、崩落した下部に堆積物があつまり、崖錐が形成されます。
  2. ガリによる崖錐の浸食
    崖錐には重力の作用で上部から砂や小石、土砂などが流れ込みます。その結果、水が集まりやすくなった箇所は雨が降った際に水みちにになり、溝のようなガリが発達します。
  3. 扇状地の形成
    ガリは崖錐を浸食し、時に土石流となって、土砂を移動させ扇状地を形成します。
  4. 扇状地の固定、段丘の形成
    扇状地はさらに浸食され、これが停止し安定すると、段丘が形成されます。

大谷崩の地形

大谷崩の流域区分を下に示しています。特に三の沢上流部、一の沢上流部の傾斜は急で、さかんに崩壊が発生し、これらの急斜面が大谷崩の地形を形成する大きな原因と考えられています。

安倍川上流域の地質

安倍川上流域は瀬戸川層と呼ばれる地層に属しています。このあたりの多くの場所は、もともと海だった地質でできています。地図上にある「砂岩(さがん)及び頁岩(けつがん)」がその海でできた岩石です。
糸魚川-静岡構造線の西側に位置し、並行する2本の逆断層(十枚山構造線、笹山構造線)の横ずれ運動によって著しい破砕を受けています。そのため大谷崩の地質はもろく、昔から崩壊を繰り返してきました。なお、安倍川上流にある新田という地域は大谷崩の崩れた土砂がたまってできた地域です。

大谷崩の気候

大谷崩の気候についてご説明します。

降雨量

大谷崩は全国的にも雨の多い地域です。

  • 一年のうちで雨の多いのは梅雨時期の6、7月と台風時期の8、9月です。
  • 災害の発生もこの6~9月の雨期、特に台風期の8,9月に多発しています。
  • これまでの記録によると大谷崩では1日当たり累積300mm前後の雨が降っても大きな変化はなく、むしろ1時間当たり100mmを超える激しい雨の際に、土石流が発生する傾向があります。

気温

大谷崩地点の1月の平均最低気温は-7~-12℃、8月の最高平均気温は20~25℃、年間平均気温は4~9℃です。これは、北海道の札幌に匹敵する気温です。大谷崩の上部の推定される値は次のとおりです。