活動地域の概要

岐阜県高山市高根地域
11 集落(4 世帯4 人で構成する地区も有る)
498 人(H18 年613 人、H19 年554 人、H20 年513 人)
合併や学校統廃合による人口流失があり、特に40 歳代までの減少が著しい
232 世帯(H18 年258、H19 年244、H20 年238)
46.3%(H18 年37.5%、H19 年40.6%、H20 年44.0%)
中心都市からの定期バス1 日3 本、町内タクシー無
農業、土建業、林業、サービス業が中心、通年民間雇用は70 人に満たない

地域の抱える課題

高山市の中でも高根地域の高齢化は著しく進行している。また、平成の大合併を機に旧高山市を中心とした人口移動が生じ、現時点では500 人(合併時と比較し約20%減)を切っている。現在、人口移動は落ち着いた状態にあり、今後は自然動態による人口減少により地域が徐々に衰退していくと予想される。また、この地域は福祉ニーズを満たす社会資源も少ない。このことから、地域住民を中心とした高齢者の支援が今後益々必要である。

活動の内容















@高山市の遊休施設である旧教員住宅を
 冬季高齢者専用住宅「のくとい館」に改装し、開設。


介護を必要とする高齢者を対象とした福祉施設ではなく、自立生活が可能な高齢者を対象に、豪雪地帯特有の日常生活の不安を取り除いた安全・安心な暮らしを提供することを目的とした。


冬季に不安を抱えながら生活している高齢者が集まり、「のくとい館」を活用し共同生活を行う。
●入居者数:11人(最大で16人が入居可能)
●入居費用:12,000円/ 月
●開設期間:12月〜3月の4ヶ月間
●提供サービス:
各入居者に対し、1部屋(こたつ、石油ストーブ、テレビ、ふとん、ベット付)、朝・夕の食事、光熱水費(電気・水道・ガス・灯油)を提供。

A他地域の若者などを募り、冬季間の除雪ボランティア
 組織を結成。「のくとい館」入居者の家屋の雪下ろし
 などを実施。


対象である高根地域は降雪量が多く、家の雪下ろし作業が必要となるが、高齢者には重労働であるとともに危険性が高い。また、家の雪下ろしが心配なことが「のくとい館」に入居できない理由の1つとなっていたため、高齢者の不安解消や「のくとい館」入居への弊害の取り除きを目的とした。


冬季に不安を抱えながら生活している高齢者が集まり、冬季高齢者専用住宅を活用し共同生活を行う。
●募集:高山市内の住民
●期間:雪下ろし時期に瞬時に対応
●活動内容:
3組の班編成(ボランティア2名、指導者1名)を行い、独居・高齢者で希望する家の雪下ろしを実施した。

B現在活動している高齢者でつくるグループを活用し、
 流木オブジェや寒干し大根などを高根地域の新たな
 特産品とし、販路の拡大を図ることで、高齢者の
 生きがいの創出を図る。


対象とする高根地域の高齢者は、夏季は農繁期で忙しく畑仕事等を行っているが、降雪が多い冬季は畑仕事もできず特に仕事がなく家に閉じこもることが多い。そのため、地域特性である寒さと標高の高さを活かし、他地域では真似できない『寒干し大根』を生産し、特産品として売り出すことやオブジェづくりなどによる生きがい創出を目的とした。


高根地域の高齢者グループのメンバーを中心として、大根の作付けから袋詰めまでの作業を行った。生産した「寒干し大根」は、地元スーパーや道の駅等での販売を試みた。
●参加者:6人(地域の高齢者グループのメンバー)
●生産期間:8月下旬〜3月下旬


  1. 「のくとい館」開設事業。(継続事業)
  2. ボランティアによる入居者を中心とした地域高齢者の家屋の雪下ろしなどを実施。(継続事業)
  3. 高齢者でつくるグループ「高根町の元気を出す会」の特産品づくり支援による生きがいの創出。(継続事業)
  4. 道の駅のほか、朝市での特産品の販売など、特産品の販路の拡大。
  5. 集落支援員などとの協働による寒干大根の生産量向上に向けた大根生産用農地の拡大

  1. 「のくとい館」開設事業。(継続事業)
  2. ボランティアによる入居者を中心とした地域高齢者の家屋の雪下ろしなどを実施。





活動のきっかけは今までの取組みから

  • 「のくとい館」開設の約2年前から、社会福祉協議会の取組みに従事するなかで高齢者が冬季の間、移動が制約され不自由な生活を強いられていることや、寂しく不安な生活を送っていることが判明した。
  • その解決策として、高齢者の共同生活が望ましいと考え、当時使用されていなかった旧教員住宅を活用した「のくとい館」の開設に向け活動を始めた。
  • 「のくとい館」開設の目的は、自分で自立して生活できる高齢者(介護が必要な高齢者は対象外とする)が不安で寂しい冬季をみんなで楽しく生活することであると明確化し取組みを進めた。

活動までの苦労は入居者集めと資金集め

  • この取組みは、施設や資金があっても入居者がいないと成立しない取組みであるため、入居者の確保に労力を要した。
  • 開設にあたって、資金の確保も大きな課題の1つであったが、「新しい公共」の補助制度の活用により、高齢者への声かけ当初に設定していた入居費25,000 円/ 月(年金暮らし(年間30 〜 40 万円の年金)の高齢者には負担が大きい)を12,000 円/ 月に減額できたことが、円滑な開設に繋がる要因となった。

開設できた要因は潜在需要の把握

  • 身体的に多少の不自由(膝が痛いなど)があるものの、自分たちで自立して生活できる状況であるとともに、今まで3日と家を離れたことがない生活を送っていた高齢者は、新たな活動に対し、当初はほとんどが否定的な意見であった。
  • 日頃の様々な取組みの中で、高齢者の潜在需要(高齢者が生活に不便と不安を抱えながら我慢して冬季を越えている)を認識し、共同生活することの楽しさを、何度も親身に通い続けることが効果的であった。


継続できた要因は入居者や家族の満足度

  • 家を離れる不安や共同生活への不安により、当初心配であった冬季高齢者専用住宅での生活は、時間の経過とともに入居者に楽しさや安心感へ変化していった。
  • 冬季の厳しい環境で暮らす親が心配であった遠方の家族は、冬季高齢者専用住宅での共同生活により、冬季も安心して暮らすことができたと大変感謝していた。
  • 開設の翌年以降は入居者の募集をしなくても、希望者本人や家族から入居依頼の連絡が入ってくるなど、初年度の取組みが入居者や家族に評価されたとともに、冬季高齢者専用住宅の継続が地域ニーズとして確立された。


入居のきっかけは担当者からの働きかけと
状況(身体的、家庭的)の変化

この地域の冬季は、降雪も多く寒く厳しいが、今までは我慢するのが当たり前だった。そのような生活を送るなか、担当者の方から入居の誘いがあり、始めて冬季高齢者専用住宅の取り組みを聞いた。始めは不安だったので断っていたが、担当者の方の顔を立てるつもりで入居した。また、膝を悪くしてから、雪かきなど冬の生活に不便を感じることが多くなってきたことや、配偶者が他界したことで独り身になったことも入居を決める理由となった。

安心して楽しく暮らせ、とても満足

安心して冬季を暮らすことができた。今までのひとり寂しい暮らしに比べ、冬季高齢者専用住宅では食事は必ずみんなで集まって食べ、日中も人と話したければ隣の部屋の人と話ができるほか、もし調子が悪く集まれなければ心配して様子を見に来てくれることが、安心した暮らしに繋がっている。

入居者自身や家族の安心感が向上

入居者自身としては、何かあればすぐ近くに人がいるし、診療所も近くにあり、時には冬季高齢者専用住宅まで診にきてくれるので、今までの冬季の暮らしに比べ安心感が増した。今までは灯油の買出しに行けないため薪で暖をとっていたが「のくとい館」ではこたつもストーブも提供してもらえて身体的にも楽になった。
家族としては、みんなが一緒に生活していることで遠方に住んでいる家族がすごく安心している。

1.開設目的の明確化

  • 開設の目的に要介護高齢者の支援を含めると、本来の目的である自立できる高齢者が入居を遠慮することが想定されたため、目的を「自立できる高齢者が共同生活するアパート」と明確にしたことが有効であった。

2.冬季高齢者専用住宅での生活による
  生活環境の向上

  • 高根地域は、公共公益施設のほとんどが地域中心部(500m圏内)に立地しているほか、地域に点在している既存集落からの移動手段も充実していない状況であるため、「のくとい館」での生活が日々の生活環境の向上に繋がった。
  • 降雪等による移動制約により周辺住民との会話が減少する冬季において、共同生活を行うことで、楽しく安心した生活を送ることができた。
  • 入居者の家族についても「のくとい館」の取組みを高く評価している。

3.高齢者の経済状況を踏まえた適切な入居費の設定

  • まずは取組みを体験してもらうことが重要であるため、対象者が経済的に負担と感じない費用の設定をする必要があったが、準備段階で国の制度を活用でき、施設改修費等を補えたため、適切な費用の設定が可能となった。

4.ニーズ対応型ではなく、潜在需要開拓型による取組みの実施

  • 今までの取組みは、住民からの要望(○○に困っている、○○できる施設がほしい)があってから対応を行っていた。
  • 「のくとい館」の取組みでは、潜在的に問題が顕在化されないことを認識していたため、潜在的なニーズを日頃の取組みで把握し、実験的にでも取組みを実践したことで「のくとい館」の取組みに対するニーズが確立できた。

5.開設の目的と地域住民の問題意識の一致

  • 高齢化が進行している高根地域において、移動制約が増す冬季における高齢者の生活サポートが必要であるという、「のくとい館」開設時の問題意識は、多くの地域住民が抱える問題意識と一致しており、各種イベント時のサポートなど取組みに対する協力を得ることができた。

他地域への展開に向けたポイント

「のくとい館」の取組みにおける成功要因を踏まえた
同様の取組みを展開するにあたってのポイント。

取組み目的の明確化

取組みの実施にあたっては、対象者への明確な働きかけに向け、取組み本来の目的を明確化することが必要。


対象者が置かれている状況の把握

対象者が居住している地域の状況等を確認し、対象者が抱えている問題を把握することが必要。


対象者へのメリットの把握

取組みに参加することで、対象者や利害関係者にメリット(生活環境の向上等)があると判断できる取組み内容であることが必要。


ニーズ対応型ではなく、潜在需要開拓型によるニーズの確立

今までの取組みは、住民からの要望(○○に困っている、○○できる施設がほしい)があってから対応を行っていた。しかし、自立できる高齢者を対象とした「のくとい館」のような取組みでは、潜在的に問題を抱えていても我慢してしまうため、ニーズとしては顕在化されない。このような取組みは、潜在的なニーズを日頃の取組みで把握し、実験的にでも潜在的なニーズへの取組みを実践してみることが必要。


高齢者の経済状況を踏まえた適切な費用の設定

新たな取組みの展開においては、まず体験してもらうこと重要となるため、対象者の経済状況を踏まえ、負担がかからない費用設定を行うことが必要。


地域の実情に応じた柔軟な取組み

高根地域と隣接する高山市朝日町地域においては、第2の「のくとい館」として新たな取組みを実施予定である。しかし、朝日町では既に利用されていない旧小学校を活用し、小規模なサロン型の「のくとい館」を検討している。このように、その地域の状況に応じた柔軟な取組みが行うことが必要。